雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

「クリスチャン・ボルタンスキー ーLifetime」にて、かつてのことを鮮明に思い出した

f:id:nijihajimete:20190903223437j:plain


「きかせて? 一瞬だった?」

そう尋ねられた瞬間、あの日のことを鮮明に思い出した。
白くかすんでいく意識の中で、「ああ、自分は死ぬのだ」と思った。その、なんと呆気ないことか。母が私の名前を叫んでいる。唇が真っ白になってしまったと悲鳴をあげている。そうなのか、今、私の唇は真っ白なのか。でもごめんね、もう目を開けることができない。本当に全く力が入らなくて、まるで強烈な睡魔に襲われたときのような──。

18歳のころ、交通事故に遭って死にかけた。
なんとか生還したものの、今も後遺症には度々悩まされている。

クリスチャン・ボルタンスキーの展覧会へ行った。
会場はいくつかの部屋に分かれて趣の異なる作品が展開されており、そのうちのひとつの部屋で、外套をまとった人型のオブジェから突然質問を投げかけられたのだ。

人型のオブジェは何体も立っており、他のオブジェのセリフを聞いて回るうちに、「ああ、これは死者への質問なのだな」と分かった。
その中で印象的だったのが、上記の「きかせて? 一瞬だった?」と、「お母さんを残してきたの?」、そして「教えて? 光は見えた?」だった。

 そこで、あの日のことを思い出したのだ。

一瞬ではなかったなあ。でも、怖くはなかった。ただ人生というものは、突然、しかも呆気なく終わってしまうのだということにひどく拍子抜けした。
もしあのまま死んでいたら、母を残すことになっただろう。頭を強く打ち、血の気が引いていく私の顔や唇の色を見て、まるで紙のように白くなってしまったと悲鳴をあげていた母。意識が遠のいていく頭で、辛うじて「怖い思いをさせてごめんね」と謝った。光は見えなかった。……というか、眠りにつく感覚と本当にそっくりだった。眠すぎて眠すぎてたまらないときと同様、だんだんと意識を保つのが困難になるのだ。眠りを〈ちいさな死〉と呼ぶのは、言い得て妙だと後になって感心した。

 そんなことを、《ぼた山》という作品の前でぼんやり思った。

続きを読む

100年たっても、新しい。マリアノ・フォルチュニ展でおおいに腰を抜かした話

「マリアノ・フォルチュニって誰?」

三菱一号館美術館の年間スケジュールが発表されたとき、そう思った。

f:id:nijihajimete:20190813195938j:plain

メインビジュアルを見るかぎりファッションの人のようだが、残念ながら存じ上げず……。というのも私自身ファッションにとても疎く、同年代の友人に比べてブランドなどもほとんど知らない。
服は暑さ寒さを凌げるかが一番大事で、次に自分に見合った値段。さらに最近だらしなくなってきた体型をカバーできればそれで充分だと思っている(ついでに皺がつきにくければ尚良し)。

それでも「マリアノ・フォルチュニ」展が気になったのは、過去に三菱一号館美術館で開催されたファッション系の展覧会で大興奮した経験があるからだ。

ハイブランドオートクチュールが並んでいたからではない。
眩いばかりの宝石が光り輝いていたからではない。

「この人やばすぎるな⁉」という逸話が、そして技術が、ぐうの音も出ないほど完璧な作品と共に繰り広げられていたからである。 

続きを読む

門外不出を連れ出す方法 「フリーア美術館の北斎展」で北斎の手癖を見た

昨年、大塚国際美術館に行ってから、自分の中で「複製」という言葉のイメージが大きく変わった。

ima.goo.ne.jp

それまでは「本物」こそが「本物」であり、「複製」は総じて「偽物」という印象を抱いていた。しかし大塚国際美術館で美術陶板を鑑賞してから、「本物」を「複製」するということには様々な意味があるということを知ったのだ。

稚拙な言い方をすれば、この世には「良い複製」「悪い複製」がある。

大塚国際美術館の美術陶板は「良い複製」であり、そして今回すみだ北斎美術館にて開催されている「フリーア美術館の北斎展」、こちらに展示されているフリーア美術館の複製画も、確固たるプライドを持った「良い複製」と言えるだろう。
本物を模すことが何をもたらすのか、その新たな一面を知ることができる展覧会だった。

※写真は主催の許可を得て撮影しています。

f:id:nijihajimete:20190729210405j:plain

続きを読む

最近、地味に続けていること

ゴールデンウイークに、野点(のだて)に挑戦した。

f:id:nijihajimete:20190518205944j:plain


前々から「実は最小限の携行品で実践可能なんじゃないか?」と勘繰っていた野点
──と言っても、本格的なそれらしいものではなく、ただ単に外でお薄を飲むというだけである。よって、シミュレーションなどしなくても、お湯と抹茶と茶筅(ちゃせん)と器があれば事足りることは分かっていたのだけれど、やってみないことには分からないので、とりあえずやってみたのでした。

続きを読む

ゆく春。楽しい時間が過ぎてしまう悲しみについて

f:id:nijihajimete:20190407205206j:plain

春が好きだ。

それも、一年のうちで今の季節が一番好きだ。

毎年、北風の中にときおり角の取れたまるい風が混じるようになると、春がもうすぐやってくるのだとわくわくする。

そして桜の蕾が気になり始めるのだけれど、これがだんだんと膨らんでくるとそわそわしてしまって、開花の情報が流れようものなら「ああ、そんなに急いで春にならなくていいんだよ」と焦ってしまうのだ。

この季節が一年のうちで一番好きだ。
でも、好きすぎるあまり、過ぎ去ってゆくのを恐れてしまう。

続きを読む

「酒呑童子絵巻」にて、彼の知られざる過去を知った

源頼光の化け物退治物語が好きだ。
それらは大スペクタクル絵巻になることが多く、派手なアクションあり、ユーモアありの、盛りだくさんな世界でできあがっている。

f:id:nijihajimete:20180615152354j:plain

《土蜘蛛草紙》東京国立博物館

 

《土蜘蛛草紙》を観て、その独特すぎる雰囲気のファンになり、あわせて彼の仲間である渡辺綱が好きになった。渡辺綱は付き合いが良いのだ。そして刀剣乱舞でもおなじみ、「髭切」のかつての主でもある。

f:id:nijihajimete:20190211210526j:plain

重要文化財 太刀 銘安綱(名物髭切・鬼切) 北野天満宮


 

そんな頼光と綱たちが活躍する酒呑童子退治の物語。
話は至ってシンプルなドラゴンクエスト的展開なのだけれど、ここへきて酒呑童子の過去を初めて知り、その衝撃がとても大きいものだったので忘れないように書いておこうと思う。

 

続きを読む

今日あった不思議な出来事

「世の中にはふしぎなことがあるもんだなあ」

そう思ったことはありませんか?
その時は大して気にも留めなかったことが、後々めぐりあわせを生むような。

f:id:nijihajimete:20190206211527j:plain



私は今まで何度か不思議な出来事に立ち会ったことがあるのだけれど、今日またそういったことがあったので(そして個人的にちょっと素敵で気に入っているので)、せっかくだし日記に残しておこうと思う。

 

続きを読む