雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

2015年に観に行った展覧会ベスト10

今年は本当にいろいろあって、本当に本当に大変で自分はこれからどうなるんだろうと途方にくれることもあったのですが、アート関係では良い思い出しかないので、趣味を美術鑑賞にして本当に良かったなとつくづく思う年の瀬です。良い思い出を下さった皆様、ありがとうございました! はて去年はどんな展示を挙げていたのかなと振り返ったら、去年も「年明けから1年大変だった……」と書いていて、まあ実際そうだったのだけれども、来年はそんな出だしにならない年にしたいと切に願います。

第1位:シンプルなかたち(森美術館 入っていきなり石とか木とかが置いてあり、その向こうに巨大なうちわの骨みたいなのとか、禅画と富士山の写真がとなりあわせに置いてあったりする。秩序はとくになさそう。こうやって書くとカオスな空間に見えますが、その調和といったらひれ伏すレベル。すべての部屋が美しかったです。今も心にはっきりと残っている。 白眉は大巻伸嗣さんの≪リミナル・エアー スペース-タイム≫。薄い布が下から吹きあがる風に揺れるだけなんだけれども、その優雅な美しさは神々しくさえありました。窓に面した展示室なのでどの時間・どの天候の時に行っても映える。これが観たいがために3回観に行きました。 シンプル

第2位:画鬼暁斎三菱一号館美術館 ポスターに一目ぼれし、楽しみにしていた展覧会。 感想はこちらに。 日本画ならではの粋なところ、本気を出すとめちゃくちゃ上手いところ、春画が笑えるところ、そして日記によく出る登場人物は毎回描くの面倒なのでハンコで解決するところ、魅力は尽きぬ。

 

第3位:鈴木理策写真展 意識の流れ(東京オペラシティアートギャラリー 格好良い写真や上手な写真を撮る人はたくさんいるけれど、気持ちの良い写真を撮るのは技術だけではなく写真家本人の素質によるものだと思い知らされた展覧会。 理策さんの写真に出てくる白は本当に”白”なのである。

第4位:舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに(練馬区立美術館) 今年は宗教とは何なのか、思想とはなんなのかを考えることが多かったけれど、聖なる信仰のイメージとして、舟越保武さんの制作姿勢と作品はぴったりそれに当てはまる。作品の前に立つと、自然と膝をついてしまいそうになる。 ブログを振り返ると会場で小さく聴こえた歓喜の歌に、「小さく、かすかに聴こえてくるよろこびの合唱は、ある種のやりきれなさと、理想と、祝福と哀しさとが綯い交ぜになってそれでも美しく美しく聴こえた。」という感想を書いています。2016年に舟越さんが手がけた<長崎26殉教者記念像>が天を見つめる教会で、きちんとお祈りをしたいというのが秘かな願い。

 

第5位:没後20周年 ルーシー・リー展(千葉市美術館) 展覧会の感想はこちらにあげましたが、国立新美術館で観たルーシー・リー展とはまた違った雰囲気の展覧会でした。夏の暑い盛り、茹だる気分をさっぱりさせてくれた展覧会。 強烈に「きちんとした人間になろう!」と思った記憶があるのは、ルーシーの芯の通った生き方に影響されたのかもしれません。

 

第6位:マグリット展(国立新美術館 中学の頃、<大家族>の模写をしたのをきっかけに作品集を見漁ったルネ・マグリット。13年ぶりの大回顧展というだけあって、有名どころがあれもこれも来ていて盛り上がりました。 なかでも<光の帝国>は好きすぎて会場の出口まで行って「やっぱもう一回……」というのを繰り返し、閉館時間まで長居してしまった。。。 マグリット

第7位:おとなもこどもも考える ここはだれの場所?(東京都現代美術館 会田誠さんの<檄>が話題となりましたが、なんだかあの騒動だけがクローズアップされてしまって、肝心の<檄>の内容や、展覧会自体の内容が置いていかれていないかが気になりました。内容、すごく良かったので。ヨーガン・レールさんの最後の仕事はさすがデザイナーだけあってセンスに溢れていたけれど、ただ「ゴミがこんなにきれいなオブジェに!」じゃなくて、そもそもこういうものが絶えず美しい海を侵しているということをスマートに突きつけてきたし、おかざき乾じろさんの作品の中には(子供のみ入場可のため)入れなかったけれど、その周囲に記されていた文章には涙がぼろぼろ出た。 会田家は家族3人が笑いあり皮肉ありでのびのびと作品を作っていた。<檄>と併せて問題視された<国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ>は平和に対する会田さんの考え・本音で、素晴らしかったですよ。ラストで私はその場で立って拍手をしたくらい(他の方も鑑賞していたので小さくですが)。 お上はなにを恐れているのかな。 おとなこども

第8位:ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし(東京藝術大学大学美術館) 2008年に西洋美術館で行われたハンマースホイ展を担当された佐藤直樹さんが手がけたシャルフベック展。ハンマースホイ好きだし、ポスターにも惹かれたので観に行ったところ、同時期でも様々な画風で作品を制作していることにびっくりしました。そして恋や老い、体調やらなんやらに悩みながら、そしてその悩みを作品に投影しながら画家として生きた人生全体が生々しくて良かったです。とはいえどろどろした作品ではなく、色の使い方はいたってシンプルで綺麗。激情にかられることなく、静かに表現しているところが逆に沁みました。 シャルフベック

第9位:杉本博司 趣味と芸術―味占郷(千葉市美術館) 賛否両論あるみたいですけど、私は好きでした。 劇場の写真も、他のところで見るのとは一味違って見えたし(バックライトがついているのかなと思うくらい)、会場内のライティングもかなり計算されているように思えました。 設えのフロアは組み合わせの妙にわくわくしたし、謎かけのように楽しむこともできました。須田さんの作品とも合っていたし、個人的にはもっと多くの人が観に来てもよかったんじゃないかな~と思ったけど、やはり立地なのかしら。。。千葉市美、好きなんですけど。。。 杉本展

第10位:プラド美術館展―スペイン宮廷美への情熱(三菱一号館美術館 ボスの作品が来るというのではりきって出かけましたら、他にもたくさん良い作品があってほくほくした展覧会。”プラドの中の小品で特に優れたもの”を集めた展示となっていました。 この展覧会は実際にプラド美術館で2013年に行われて好評を博し、バルセロナを経て来た巡回展。目利きが選んで自信のあるものだけを持ってきて、東京に小さなプラド美術館を作ったという感じ。それもそのはず、一連の展覧会の指揮監督を務めたマヌエラ・メナさんが日々美しいものに囲まれながら考察を繰り返して感覚を研ぎ澄まし、選びに選んだものだけがやってきているのだとか。(会場では”バルセロナでやった時よりも良い”という声も……) 年明けもまだやっているので、また行こうと思います。 プラド

このほかにも幽霊画展や、電気グルーヴのツアーグッズの元ネタが見たいっていう理由で3時間(×2回)並んだ鳥獣戯画、残念ながらタイバニは出ていなかったけれど(年表には出ていた)テンション爆上がりのマンガ・アニメ・ゲーム展、フラッシュバックまみれになったわ図録が豪華すぎだわで興奮した岡崎京子展、BL・異種・ショタなんでもありでこれまた図録が鈍器になるレベルで豪華な春画、観に行ってからしばらくはバッハの「フーガの技法」が頭から離れなかった石田尚志展、全てのバトル絵の祖はこれか!!と思ったアンギアーリの戦い、静かな秋の日に行けて良かった鎌倉近代美術館、まさか追悼展になってしまうとは思わなかったけれど充実の内容だった赤瀬川源平の芸術言論展、蕪村のかっこよさにしびれた若冲と蕪村展、熱海まで行く価値ありだった光琳アート展、ファイナリストが秀逸で中でもミヤギフトシさんが最高だった日産アートアワード2015など、他にもいろいろありました。あと最近は刀剣乱舞をはじめたので、東博に行って刀を見る目つきがギラついたものに変わったりもしましたね。 そして我らが山口晃展「前に下がる 下を仰ぐ」殿堂入りなので敢えて入れてません

ほんっと今年はオンが凄まじく大変な年だったけれど、オフは豊かな年でした。 来年は両方とも豊かになったらいいな。 まずはカラヴァッジョ、めっちゃ楽しみにしております。