雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

2016年に観に行った展覧会ベスト10+2

2016年は2015年に輪をかけていろいろ大変だったため、遠方等観に行けなかった展覧会も結構あるにはあるのですが、いろいろありながらも隙を見てちょろちょろ足を運んだので、気になっていたものの7割くらいは観に行くことができました。 そんなわけで今これを再考する意義とか無視の、完全に趣味に走った2016年ベスト10を振り返ってみたいと思います。

 

10位 「速水御舟の全貌 ―日本画の破壊と創造」 (山種美術館御舟山種で速水御舟?それって前にも観たような……?と思わせておいて「スンマセンした!まったく新しい御舟でした!」っていうところまでが山種美術館の様式美なので、今回もきっと新鮮な展示なんだろうなと思っていたら新鮮どころかベリー ベスト オブ速水御舟すぎてびっくりした!っていうのが本展。 展示室の半分は山種以外が所蔵先。初めて観るものも多かったし、お約束の《炎舞》も健在、《名樹散椿》の背景は金箔ではなく実は金砂子の“撒きつぶし”なんだよ~(気が遠くなるほどの手間かかってる……!)っていうのも知ることができ、一層御舟に近づけた感のある展覧会でした。 《あけぼの》の美しさにくらくらしたのも印象的。御舟が大好きな人も、御舟を全く知らない人も、同じくらい楽しめる絶妙な構成となっていました。

 

9位 「PARISオートクチュール ―世界に一つだけの服」 三菱一号館美術館オートクチュール

「服を買いに行く服がない」とか「最近ユニクロも高くなってきてつらい」とか言ってる私みたいな人は「オートクチュールとかどこの世界の話?自分には関係ない」と思いがちですが、そういう人こそ観に行ったほうがいいと思う展覧会でした。 もうね、完全にバトル漫画の世界。 華やかな世界の裏では血反吐はきながら己の命と引き換えに、ただ一点の服をこの世に生みだす人々のドラマがあって、観終わった後はブリック・スクエアの中庭でコーヒー飲みながらぼーっとしてしまった記憶あり。それくらい熱かったです。

 

8位 「ジョルジョ・モランディ―終わりなき変奏」 (東京ステーションギャラリーモランディ展 モランディの持つ独特の手法、「ヴァリエーション(変奏)」にスポットを当てた展覧会。同じような構図の静物画を描いてるんだけど、実はちょっとずつ違う。それは静物の並び順だったり影だったり光だったり、時には降り積もった埃だったり。 あんだけ似たような絵が並んでいるにもかかわらず、「なんだよみんな似たようなのばっかじゃねえか」っていう人が一人もいないどころか、似た絵が並んでいることに対して妙な心地よさを感じてしまうところがモランディの愛される所以なのかもしれないですね。 モランディといえば静物が有名だけど、風景画も来ていました。ああ、ずっと室内に閉じこもっていたと思ったら青空や土をこういう色で描くのねっていう。風が吹き抜けていくような絵だったな。

 

7位 カラヴァッジョ展 (国立西洋美術館

カラヴァッジョ展4年前のイタリア旅行中、ローマでは教会を中心にカラヴァッジョ作品を観て回ったこともあって待望だったカラヴァッジョ展。奇しくも《法悦のマグダラのマリア》が発見され、世界に先駆けての公開となりました。絵ももちろん良かったんだけど、一番記憶に残っているのが裁判やら逮捕されたときの書類が来ていたこと。ほんっと刃傷沙汰ばっかりのオッサンで、外食したときにお店の人にアーティチョークの味付けを尋ね、「匂いを嗅いでみたらわかるよ」って言われただけでブチ切れて皿を投げつけ、裁判になったエピソードなんて爆笑ものでした。まあそんなだから殺人犯になって逃亡することになるんだけど……。 でも絵は上手いんだよね!ファンもたくさんいるんだよ!ってことで一緒に展示されていたラトゥールをはじめとするカラヴァジェスキ(カラヴァッジョクラスタ)たちの作品も見ごたえありで満足の展覧会でした。

 

6位 「木々との対話 ―再生をめぐる5つの風景」 (東京都美術館 木々との対話船越桂部屋で1時間半居座ってスンマセンでした、っていう展覧会。 須田さんとか土屋さんとか好きな作家さんいたし、國安さんは迫力あるし田窪さんのコンセプトこそこの展覧会の真髄だなって思いながら観ていたんですけど、船越さんのスフィンクスの前に来た瞬間すべての意識が吹っ飛んだ。 一度でいい、一度でいいから、船越さんのスフィンクスに抱きつきたい。女子高生と手をつないでみたい的な願望で気持ち悪いこと言ってるの承知で言うけど、ほんっと一回でいいから《遠い手のスフィンクス》に抱きつかせてくれ!!っていう展覧会でした。

 

5位 「クラーナハ 500年後の誘惑」 (国立西洋美術館クラーナハドS冷笑系女子の絵しか知らなかったので、実は普通の絵や肖像画も描いていたんだよ~ていうかエロ絵は普通の絵が売れなくなってきたから描き始めたんだよね……という話を聞いて(キャプションを読んで)「ええーッ⁉そうだったんですか?いやあ、てっきりもともとR18の絵師様かと……」と思った展覧会。 なんか心に闇がある感じの人が薄暗いアトリエでちまちまマニア向けに描いていたのかな?と思ったらなんと大工房、それもアニメーション制作会社みたいな超システマチック工房だったことを知り、絵柄から人を判断しちゃいけないなと良い勉強になりました。 現代のアーティストたちによるオマージュも面白かったし、マン・レイピカソクラーナハに影響を受けていたんですね。ユディトの手袋、あれ、関節のところが気持ち悪くて良いなとずっと思っていたんですが、指輪を見せるためにああいう構造の手袋になっていたそうな。メインは言わずもがなですが、後半にあった《メランコリア》、このメンヘラ具合も印象的でした。

 

4位 「オルセー美術館オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」 (国立新美術館ルノワールアートクラスタの方々の間でも人気が高かった展覧会。 《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》はすごい。 展示室に入って、まだ絵が遠くにあるというのに、そして会場内には鑑賞者が溢れているというのに「あそこに木漏れ日がさしている!」と一発でわかる力を持っているというのはやはり特別なんだと思います。絵なのに、本当にこちら側にまで光が降り注いでいるかのように見えるんだもの。 あと、オルセーとオランジュリーからそれぞれ対になる絵を持ってきて並べていたのも良かったです。並ぶことによってわかる面白さ、作者の人間性みたいなものが伝わってきました。うん、でもやっぱり「ムーラン・ド・ラ・ギャレットはすごいよね」に尽きますね。観ることができて良かった。

 

3位 「若冲展」 (東京都美術館若冲みんな敢えて入れないみたいだけど、私は入れました(笑! だって動植綵絵三十幅揃い踏みは初めてだったから。やーもう、すごい。あれはホント、何なの?っていうくらい眼福を通り越して極楽でした。 あと菜蟲譜をまるっと観ることができたのも嬉しかった。あれは通してこそですね。繋ぎのテクニックが粋すぎる。そもそも初っ端の葡萄図が完璧で、思えば最初からクライマックスでした。三の丸リニューアルでまた動植綵絵観れるかな? (若冲展の感想はこちら

 

2位 「ゴッホゴーギャン展」 (東京都美術館ゴッホ

これも都美!思えば今年は都美が熱かった。 もうね、ゴッホゴーギャン。私はどっちも好きではないんですけど、この展覧会のことは大好きです。観終わってひと月を経て、やっと冷静に振り返ることができる……それくらい心に大きな何かを遺していった展覧会でしたね。合体ロボよろしく、絵画、キャプション、空間、図録、そして音声ガイド、その全てが揃って最強になるタイプの展覧会でした。 全てが揃った瞬間、我々は椅子の絵の前で震え、出口手前で燃え尽きるのだ……! (詳しくは長くなるので、こちらを)

 

1位  「鈴木其一 江戸琳派の旗手」 (サントリー美術館きいつ 私の中の“キングオブかわいいおじさん”こと中村芳中を抜き去って見事かわいいおじさん王座に君臨した其一。他の人も言ってたけど、琳派っていう括りにしてしまうにはちょっと疑問を感じてしまうところもあるくらい多才でした。 ていうか今までザ・琳派みたいな其一ばかり観てきた所為もあるんだろうけど、別に琳派琳派してないやつも描いてるのよね。個人的には《朝顔図屏風》は近美の琳派展の展示の仕方のほうが迫力あって好きだったけど《朝顔図屏風》だけじゃないんだよ其一は……!って思っていたんでそこはどうでも良かったです。 だって《群禽図》で絵本ばりのかわいさを見せつけたかと思えば描表装もめちゃくちゃセンス良いし、《鶯草図香包》でお香包まれた日にはどうしたら良いんだろう?ってくらいの無双っぷり。 《四季歌意図巻》や《近江八景図巻》みたいなちっちゃいやつもホンット憎らしいくらいかわいく描くから、こっちはたまったもんじゃなかった。かわいいだけじゃなくて上手いからとにかく大変だし、さらには《糸瓜朝顔図》とか渋いのも描くからもうどうしようもない。SUKI!!!というわけで文句なしの第一位となりました。

 

次点: 高島野十郎 ―光と闇、魂の軌跡」 (目黒区美術館高島Twitterのタイムラインに流れてきた蝋燭の絵を見て「よし行こ」と即決した展覧会。 それまで知らなかった高島野十郎を知ることができたのは幸運でした。 ラトゥール大好きなんで、こういう蝋燭系の絵に滅法弱いのです。と思っていたら絵にまつわるエピソードがストライク過ぎて、二重の意味できゅんと来たのも良い思い出。野十郎、生涯にわたって蝋燭の絵を描き続けていたんですが、展覧会に出品することも売ることもせず、親しい人に一枚一枚手渡していたそうです。 野十郎は嫁もとらず、画壇とも付き合わず、ひっそりと絵を描き続け、絵が売れていくときはじっと玄関の戸口に立って見送るような人だった。そんな彼が一枚一枚手渡していたのが、あの神秘的なまでに静謐なゆらめきを持つ蝋燭の絵なんです。うーん、たまらん。 緻密すぎるほど緻密な風景画も迫力あったけど、やっぱ推しは静物と太陽やら月の絵。月は光の滲み具合がめちゃくちゃ素晴らしかったです。静物シャルダンが好きな人は好きなんじゃないかなっていう感じの暖かさがありました。

 

大妖怪展 妖怪妖怪大好きだったから前期も後期も行ったんですけど、今までの妖怪展とは一線を画す、「妖怪のビジュアルについて考える」展覧会だったのが面白かった。といっても単に姿形が面白いっていう話じゃなくて、ビジュアルを掘り下げて考察することで見えてくる新しいアプローチに乗っかって妖怪画の歴史を探っていくという、体感型論文みたいな感じの展示が独特でした。 恐ろしい地獄絵(六道絵)から、思わず笑ってしまう《姫国山海録》、そしてタイトルにもある土偶から妖怪ウォッチまで。仏画と風俗画、民俗学が自然に交差する世界。そのターミナルのひとつが妖怪なんだと思います。 (これについても詳しくはこちら)

 

ここには書けなかったけれど印象に残っているもの、ギャラリー展示で良かったものもたくさんあります。 現代美術で言えば大竹伸郎さんの《黒い家》での体験は新鮮だったし、六本木クロッシング小林エリカさん、ミヤギフトシさんの作品は素晴らしかった。ミヤギフトシさんには年1本の割合で魂を持っていかれています。 来年はもっともっと足を運べるといいな。道後にも行きたい所存です。 まずは年明けの東博へ。 2017年も心躍るような展覧会に巡り逢えますように!