雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

StairAUG. photographics exhibition 2013行ってきた

@B Gallery

StairAUG.は東京工芸大学芸術学部写真学科から派生した写真家集団。 今回の展覧会メンバーは大和田良、本城直季、牧野智晃、天田輔、中村紋子、そして現役大学生の中村悠希。

メンバーの名前を見てもわかるように、皆それぞれ個性的な写真を撮る人たちです。 (天田君は放送関係、紋子ちゃんはイラストレーターとしても活躍中。ちなみに天田くん、神様にインタビューしたことがある稀有な人です!)

同級生だったため、彼らの作品はそれこそ初めて同じ暗室に入った時から見ているのですが、個人の作風が確立されていく過程というのは、それはそれは面白いものです。

プロのフォトグラファーとして世に出るようになると、本城君は特にそうですが、「本城直季といったらこれ!」というイメージが定着します。

[caption id="attachment_337" align="aligncenter" width="300"]本城直季 "small planet"より 本城直季
"small planet"より[/caption]

でも、今回の本城君は家族写真や夜の街。 学生の頃から撮り続けているもの。 命について深く考え、ときに諦観し、表には出さずとも内側で静かに反芻する。 たぶん、これらの作品に触れてみると、あの”ジオラマのような世界”が「おもちゃみたいで可愛い」だけの世界ではなく、もっと別のもの・違った視点で目に映るようになると思います。 本城くんはこのほかにも恵比寿で個展をやっていますが、そちらもかなりプライベートな作品のようで、きっとこういう形に触れることで、彼の内側にある作家性というものを知ることができるんじゃないかな、と思いました。(この日、本城君はおめでたいことがあったばかりで会場にはいなかったので本城君の写真はナシ)

 

大和田くんは、コンセプトごとにガラっと作風を変える人だけれど、一貫して「きっちり美しいプリントを仕上げる。とにかく隙が無い」という姿勢は変えません。(余談ですが、私はこの盆栽の写真が好きで好きで何回も見に行きました。)

[caption id="attachment_338" align="aligncenter" width="300"]大和田良 "BONSAI"より 大和田良
"BONSAI"より[/caption]

[caption id="attachment_339" align="aligncenter" width="300"]大和田良 "ROUND"より 大和田良
"ROUND"より[/caption]

けれど、今回は故郷宮城を中心にかなり自由に撮っていました。ryok 自由に撮っているとはいえ、プリントや構成は相変わらずのセンスを発揮していたのだけれど、あら何だかずいぶん身軽な感じだね、という雰囲気。 ―――”写真家それぞれが感じること、思うことを何よりも大切にし、自分の内側に注意を払い続けて忠実な再 現を試みる”(StairAUGの理念) なるほど、そうそう、そういう感じ。 本人曰く「もうこういうことはStairAUGの活動でしかできなくなった。だからやりたいなと思ったことを忠実にやってる」。

そうなのよね。依頼されて撮影すると、そのテーマに自分らしさをどれだけ入れることができるかが勝負どころになるんだけれど、それとは別にクライアントの満足度が重要になってくる。だから、100%思うようにはできない。 そんなわけで、どこかで100%思うようにできる場所を作っておかないと麻痺してしまう。

そのようにして、個人名義では個性をきっちり出した作品を発表している彼らですが、今回の展覧会はどちらかというと、のびのびと、学生時代の時のような「写真を撮る時のきもち」に立ち戻っているような、なんというか懐かしさなんかを呼び起こしてくれるものでした。 というのは私の立場からの感想。 はじめて彼らの作品をこういった形で観る方にとっては、まるでプライベートや実験室を見ているような気持ちになると思います。

 

牧野くんは透明感のある写真を得意とするため、様々な広告やファッション誌でも活躍していますが、本領は「おばさん」たちの写真。

[caption id="attachment_347" align="aligncenter" width="300"]牧野智晃 <Soap Opera>より 牧野智晃
"Soap Opera"より[/caption]

”Tokyo Soap Opera”、そしてアメリカにわたって撮影した"Soap Opera"では、熟女たちの不思議なポーズが話題となりましたが、今回は同じコンセプトのもとで動画に着手。 主婦たちは昼間何をしているのか。家事の合間、ふとした瞬間、もしかしたらこんなにも不思議な時間を過ごしているんじゃないか。そう思わせる、誰も知らない世界が静かな中で進むのを見ていると、白昼夢の中にいるような気になってきます。

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中村紋子さんは、多才すぎてなにからどうやって紹介したらいいかわからないので、ホームページを見てもらうとして。。。(写真が素晴らしいので、ぜひ見てもらいたい 紋ちゃんHP) 今回は絵画を出展していました。 隙間なく、みっちりと埋め尽くされた画面だけれど、不思議と威圧感がないのはなぜかしら。 紋ちゃんの写真は本当に格好良くて、凛々しいのだけれど、絵はまた違った趣があって、本当に同じ人の作品?と思ってしまうほど。 この日彼女は書籍の売り子さんをしていて、ひっきりなしに来場者から話しかけられていたのでお話をすることができず。。。そして作品の前にもずっと人がいたため写真を撮ることができず。。。ごめんなさい。。

 

今回初参加の現役女子大生(!)中村悠希さん。 普段はデジタル写真研究室に在籍しているそうですが、今回はアナログで参加。 私の写真だと伝わりにくいのですが、中村さんの写真、色が本当に綺麗なのです。 女の子が好きそうな可愛い色、というのではなく、ハッと目を引く凛々しさがあるというか、とにかく発色が美しい。加えて不思議な遠近感があります。 そのことを伺うと、「敢えて遠近を測れないようにした」という狙いがあり、撮影には鏡などを使って視覚的な距離を曖昧にする工夫をされたそうです。一見整っているように見える画面の中には、言葉では言い表せない複雑な空間の「曖昧さ」が存在していました。 yukin

 

天田くんの作品はFacebookやジンでも拝見したことがあるのですが、優しい写真が多いというのが私の中の印象。天田くん自身がとても優しい(というか、恐ろしいことにも柔らかくて清潔な視線で立ち向かえる人)という印象なので、その影響が強いのかもしれません。

今回は静かな住宅街に出現した巨大な兎がモチーフとなっているのですが、これは、カワイイとかやさしいがメッセージではないんだろうな、というのがはっきり分かるものでした。 おそらく同じシチュエーションで天田くんが“カワイイ・やさしい”を伝えたいなら、ちゃんとそういう写真が撮れる人なので、この撮り方はしないはず。 言葉では天田くんの考えを知る機会が結構あるのですが、作品を通して知る機会があまりなかったので、今回この写真を見ることができて本当に良かった。 (反射が多くてプリントの様子が見難いですが、実際はとてもきれいなプリントです) taskk

 

そんなわけで、前述の通り私にとっては懐かしいもの・原点へ立ち返らせてくれるものでしたが、彼らの作品を彼らの仕事として見てきた方にとっては、とても新鮮であり作家個人の考えや内面に触れることができる展覧会だと思います。

新宿、マルイの裏というアクセスしやすい立地(BEAMS路面店)なので、お近くに寄られた際にはぜひどうぞ!

 

StairAUG. photographics exhibition 2013 2013年8月8日まで 11:00~20:00 (会期中無休)