@千葉市美術館
年明け山種美術館で行われた「かわいい展」然り、日本画には思わずやに下がった顔になってしまうようなかわいい絵がたくさんあります。禅画にも多いですよね。そういう絵を見ると、この国でゆるきゃらをはじめとする丸っこいキャラが増産されることはとても自然なことなのかもしれない・・・、そう思えてきます。
で、中村芳中なのですけれど、これ↓を江戸時代のオッサンが描いたという愛らしさが、もうね・・・(悶絶
中村芳中は江戸後期の京都出身の画家。はじめのころは大阪で文人画や山水画などを描いていたけれど、周囲の影響で尾形光琳にハマる♡ その後江戸へ渡ったり大阪へもどってきたりしながら琳派特有の技法を使ってかわいい作品を遺した御仁。人物に関する細かい資料は断片的にしか残っていないけれど、酒井抱一と同年代で、木村蒹葭堂とかと交流があったといわれております。
会場構成は、タイトルに「光琳を慕う」とあるように、まず最初の部屋には尾形光琳・乾山兄弟をはじめ、光琳とその後の絵師たちの作品がならんでいます。光琳と言えば燕子花ですが、こちらにはがっちりトリミングされた燕子花がありました。乾山の<色絵松図茶碗>もとても素敵でしたが、尾形兄弟の並びにあった渡辺始興の<簾に秋月図>がすごーく良かったです。ただ、簾が明るい色なので少々浮いてしまっている感も……もうちょっと渋い色だったらさらに良かったかもしれない。
「光琳を慕っていた絵師たち」に軽くふれ、さていよいよ芳中のターンですが、いきなりほのぼの全開です。まるっこい菊、ムーミンのニョロニョロのような蕨。
[caption id="attachment_955" align="aligncenter" width="231"] 蟲師の作者、漆原友紀さんの描く蕨も、こういう感じですね[/caption]
で、ここで思わぬ再会が。 ざ…っ!! 雑画巻があるではないか!!!!!
[caption id="attachment_944" align="aligncenter" width="387"] <雑画巻・紅葉に鹿図>
中村芳中[/caption]
以前府中市美術館で見て一目惚れしたこの絵巻、本当に本当に美しいです。清潔で柔らかくてでも凛としていて、本当に素晴らしい。前松藩主の真田幸弘のために選りすぐりの題材を描いたもので、上記の紅葉に鹿のほかにも子犬やらなにやらが載っていますが、これもらったら相当うれしいと思うぞ。紅葉も鹿も「たらしこみ(色を塗ってまだ乾かないうちに他の色をたらし,そのにじみによって独特の色彩効果を出す画法)」で描かれていますが、なんとも上品です。
そう、たらしこみなんだよ……。 琳派沼にはまった画家の通過儀礼として、多くの画家が「たらしこみ」を使っていますが、芳中はたらしこみまくってるっていうか、多用してますよね。。。花とかほとんどそれじゃん!っていう・・・
でも、この「たらしこみ」を使った花たちがとてもかわいくて、そのなかでもポスターになっている梅の座り具合がまた絶妙なのですよ。
[caption id="attachment_947" align="aligncenter" width="143"] <白梅図>[/caption]
これを見た瞬間、狩野山雪の<老梅図襖>を思い出したけれども、あっちは黒魔法でこっちは白魔法って感じかしら…。ともかく、一見単純そうに見える枝ぶりですが、見れば見るほどその間隔やら線の曲り具合の妙に唸ります。結構大きめの絵ですから、迫力もあります。 で、丸い花と言い、この梅と言い、こういうの見てるとこの人はデザインのセンスに優れていた人なのだろうと思えてやまないのですが、現代でも通用するだろうなと思ったのが<枝豆露草図屏風>。
[caption id="attachment_949" align="aligncenter" width="411"] <枝豆露草図屏風>[/caption]
これ、銀地に緑青と金泥と墨で描かれているのですが、いい具合に銀が渋くくすんできていて、かっこいい。描いてあるものはデフォルメされている部分が大きいけれど、配色が渋いので決して甘い絵にならず、大人向けの引き締まった印象をのこします。この、「かわいいけど、それだけじゃない」っていうのが芳中の持ち味なのかもしれません。
狩野派をはじめとする絵は権力の象徴として扱われることが多いけれど、芳中の絵はおよそ権力という強靭なイメージとは離れています。部屋に置いてインテリアとして楽しんだり、たまに開いてながめたり、そういう人向けの作品なのかも……と思うと、現代でマリメッコやminä perhonen好きな人と似た感覚の人が江戸時代にもいたのかな、なんていう想像もできました。 きっとこの<蓬莱図>を掛けて、来客に「お?何の絵?あ、蓬莱山じゃん!」みたいに言われてにこにこしたんじゃなかろうか。パっと見て蓬莱山を描いたものだとわからなくても、符号が揃えばお題がわかる。”いかにも”なつくりではないところに遊び心やウィットがあって、そういうのも所有者の心をくすぐったことでしょう。 (薄くて見辛いですが、手前に亀、蓬莱山、松、鶴がいます。他の絵師の描く蓬莱山と比べてみると思い白いかも。)
[caption id="attachment_957" align="aligncenter" width="208"] <蓬莱山図>[/caption]
扇絵が多かったのも、もしかしたら「制約のある中でどれだけの表現ができるだろうか」というルールが彼の中のデザイナーの部分にしっくりきたからなのかも(単にオーダーが多かっただけかもしれないけど…)。限られた面積、扇を開く・閉じるという動作に映える絵柄。会場には柔らかい筆運びが特徴の芳中らしからぬ力強い富士を描いた扇が展示されていましたが、開く直前に絵を見ると、富士が立体的に見えるというものでした。そういうのを、この人は楽しんで作っていたんじゃないかな。
そういえば、托鉢僧をデフォルメした伊藤若冲の<托鉢図>を芳中も描いており、僧侶の配置は違えど雰囲気が似ていることから、どこかでニアミスしていたのかも。芳中の托鉢図は、途中で鼻緒が切れてしまった僧が列から外れて鼻緒を直しています(笑。全体的にみんな楽しそうにしていてとても良い絵。
[caption id="attachment_958" align="aligncenter" width="121"] <托鉢図>[/caption]
展覧会の後半は光琳画譜の展示とともに、同時期の大阪画壇の紹介をしています。松本奉時の絵が際立って魅力的でした。<蝦蟇図>をまた見ることができたのは嬉しかったし、初めて見た<漁夫図>の漁夫の顔、最高なのですわ…
最後に七五三長斎編の<萬家人名録>があり、そこに芳中の自画像と住所が載せられていました。 他の人たちが比較的リアルに描くなかで、チャーリー・ブラウンみたいな顔の芳中。ここまでスタイルを貫かれると、嬉しくなってしまいます。この人だから、こういう絵が描けたんだな、そしてきっとそのスタイルは、後に神坂雪佳にも大きな影響を与えたんじゃないかな、と思えてなりません。
[caption id="attachment_962" align="aligncenter" width="300"] 神坂雪佳
<軒端の梅>[/caption]
そうそう、芳中展の奥にコレクション展があるのですが、小原古邨が出ていましたわよ~ 山本タカトファン、池永 康晟ファンはぜひに♡
[caption id="attachment_963" align="aligncenter" width="209"] 小原古邨
<月に梟>[/caption]
「光琳を慕う 中村芳中展」 千葉市美術館 2014年4月8日(火)~5月11日(日) 日~木曜日 10:00~18:00 金・土曜日 10:00~20:00 http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2014/0408/0408.html