2019年は本当に忙しく、激動とか多忙とかそういう忙しさではなくて、もう「心を亡くす」系の忙しさでした。仕事というか、環境が辛かった。プライベートの記憶が2018年とごっちゃになっている。
──で、去年はどういう出だしでベスト10のエントリを書いたっけと振り返ったところ
今年はもう本当にいろいろあって忙しくて、なんか2018年と2017年の記憶がごっちゃになってしまって「2018年の展覧会ってなんだっけ……?」という……。
と書いており、同じじゃねーか! と声に出してツッコミを入れてしまった。来年はポジティブな出だしにするぞ! そのためには環境を変えないとね……。
そんなわけで、2019年。
業界は同じでも業種が変わったので、内覧等に行く機会はめっきり減りましたが、その分時間に縛られず、仕事を抜きにしてじっくり鑑賞することができました。
正直忙しくて記憶が吹っ飛んでいる月があるため、ベスト10という形をとるか迷いましたが、印象に残っている展覧会は追って備忘録メモを付けていこうと思います。
第1位
同じジャンル(?)が1~3位になってしまうので、まとめ。その中でも良かった順に書くと、以下です。
・世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて(目黒区美術館)
・ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道(国立新美術館)
・クリムト展 ウィーンと日本 1900(東京都美術館)
今年はウィーン分離派系が大豊作でした。日本・オーストリア 外交樹立150周年ばんざい。特にウィーングラフィックは図案・紋様大好きな自分にとって全部乗せみたいな展覧会で、図録もグッズも5,000円近く買ってしまった。
新美術館の方は歴史背景(政治や街づくりなど)も良くわかったし、来ている作品もまんべんなく良かった。都美の方は何と言ってもベートーヴェン・フリーズが素晴らしく、時間の限り居座ってしまったなあ……。
2019年は「クリムトおじさん、ありがとうイヤー」でした。
第2位
へそまがり日本美術(府中市美術館)
こちらはいまトピにも書きました。
へそ展、最高だった! 府中市美は家からかなり遠いのだけれど、前後期コンプできて本当に良かった。行った甲斐があった。庇護欲にも似た愛おしさを感じる日本美術があるということを思い知りました。
同館は毎年「春の江戸絵画まつり」というシリーズ物の企画を立ててくださり、それがまた毎年面白いのよ……。来年は「奇想の系譜」に対抗(?)して「ふつうの系譜」という……もうタイトルからして笑っちゃう展覧会が開催されるそうなので、これも行くしかないよな。
第3位
遊びの流儀 遊楽図の系譜(サントリー美術館)
こちらもコンプした展覧会。とにかく楽しかった。屏風の中でゆるゆると踊ったり遊んだり寝っ転がったりしている人を見ているだけで、こっちまで一緒になって遊んでいるような気持ちになれてしまった。遊楽図、最高。計算しつくされた肩の力の抜き具合、絶妙なゆるさ。
とりわけ百合感満載の《婦女遊楽図屏風》が素晴らしかったですね。あとカルタ全般。屏風の中に登場する道具が実際に展示されていたのも良かった。
ほんと「遊びをせんとや 生まれけむ」だよな~と、しみじみ思った展覧会。
第4位
ルート・ブリュック 蝶の軌跡(東京ステーションギャラリー)
2018年の夏に目黒区美術館で開催された「フィンランド陶芸」の展覧会で初めて名前を知ったルート・ブリュック。その半年後くらいに、乃木坂のブックスアンドモダンでルート・ブリュックの小さな展示が行われ、「2019年の春にステーションギャラリーで回顧展が開催される」と知って楽しみに待っていたのだけれど、もう実際観たら期待以上で、特に蝶の標本さながらに壁一面に陶器が並んだ部屋では鳥肌が立ってぞくぞくしてしまった。それくらい素晴らしかったです。
いつかフィンランドに行って、あの巨大な作品を観ないとな。
第5位
塩田千春:魂がふるえる(森美術館)
こちらもいまトピに書きました。
丁度いろいろあって生死について考えていたときだったので、自分の中に強く残った展覧会。ふと振り返っては反芻したりもしました。
海外からの旅行客が多かったり、インスタ映えスポットとして捉えられていたのも印象的だった。
奇しくも同日にボルタンスキーを観に行ったのですが、塩田千春が「不在の存在」を表現するなら、ボルタンスキーは「存在の不在」を表現しているなと思ったのでした。
第6位
ヒグチユウコ展 CIRCUS(世田谷文学館)
世田文の底力を知ったというか、会場づくりが本当に上手だと唸った展覧会。クラフト・エヴィング商會以来の衝撃。グッズも瞬殺、黒色すみれさんによる音楽もぴったりでした。
あの世界観が好きな人にはたまらない展覧会だったのでは。ヒグチさんの絵本の原画に加え、ポスターから伺う仕事などもまとめてみることができてよかった。
第7位
日本の素朴絵(三井記念美術館)
こちらもいまトピで紹介させていただきました。
ブログが滞ってしまっているぶん、いまトピで残すことができたので助かった。いまトピにはかなり助けられた年でした。
ima.goo.ne.jp 以前日本民藝館で「つきしま」「かるかや」を観てから、一気にファンになってしまった「この手」の絵。本展では「素朴絵」としてカテゴライズし、単にゆるくてかわいいだけではなく、絶滅した絵画として紹介されていたのも興味深かったです。
一見似ている「へそまがり日本美術」とは似て非なるものという扱いも良き。
第8位
メスキータ(東京ステーションギャラリー)
東京ステーションギャラリーは毎年、優れているけれど日本ではあまり知られていない作家を紹介してくれるので感謝しまくっています。
メスキータのことは全く存じ上げず、エッシャー展で辛うじて「エッシャーの恩師」という情報だけを得たのだけれど、丁度その頃の日曜美術館か何かで「エッシャーが命懸けで守ったのが、恩師メスキータの絵。そのメスキータの展覧会が2019年夏に開催される」と知り、俄然興味が湧いたのでした。
メスキータの版画はとても独特で、まるでマリオ・ジャコメッリのよう。彼の仕事、環境、そして最期を知ってからエッシャーの第二次大戦以降の作品を観ると、何とも言えない胸の詰まる思いに駆られるのでした。
第9位
高畑勲展(東京国立近代美術館)
高畑さんが2018年4月に亡くなってしまったため、単なる回顧展というよりも追悼という意味合いも内包した展覧会だったのでは。ちょうどNHKのあさドラで「なつぞら」が放送されており、高畑さんがモデルになっているキャラクターが主人公の夫という設定だったのも盛り上がりました(音声ガイドはその役を演じた中川大志さんが担当)。
高畑さんのテレビアニメやジブリ映画で育った身としては何度も会場で涙ぐんでしまい、特にハイジのオープニングでペーターとハイジが手を取って踊る映像の前では、ぼろぼろと泣いてしまったなあ。
「平成狸合戦ぽんぽこ」は設定を、そして「かぐや姫の物語」はあの疾走シーンの原画を観ることができたのも貴重。「火垂るの墓」は昼と夜の光の違いへの拘りを学びました。高畑さんの才能の凄まじさに畏敬の念を覚えるとともに、そんな高畑さんと一緒に仕事をした人は相当心血を注いだのだろうなとも思った。
第10位
コートールド美術館展(東京都美術館)
印象派の展覧会はもう幾つも行っているのだけれど、行くたびに新しい発見がある。
日本では印象派好きが多いから一般受けするジャンルと思いがちだけれど、なかなかどうして癖のある人たちの集まりだぞというのが回を経るごとに少しずつ分かってきて、なんというかワクワクするのです。とある講演会で印象派とマネの話を聞いていたので、それを踏まえて観ることができたのも良かった。
入っていきなりセザンヌ尽くしだったのもびっくりだけど、個人的にはウジェーヌ・ブーダンの《ドーヴィル》の衝撃は忘れられない。ブーダン、海や空の絵が多く、「空の王者」というバトル漫画の二つ名みたいな愛称があるのだけれど、いかんせんモチーフが似通っているから「良いけど地味」に見えてしまうことがあり……。
しかし、ブーダンはやはり王者でした。人がぽつぽつ居た展示室ではピンとこなかったけれど、閉館前、誰もいない空間になった瞬間、他の絵を圧倒する風のようなものが絵から吹いてきて、もう本当にびっくりしてしまった。とにかく空がすごい! なるほど、空の王者は伊達じゃないというわけか。そりゃ、これを何度も味わうには購入するしかないわな……と、絵を買う意味を体験した貴重な展覧会だったのでした。
そのほかにも
一応ベスト10というかたちで列挙してみたものの、チケットの半券を並べてみると「あれもこれも」と思い出がよみがえってくる。
まず、大倉集古館がリニューアルしてエントランス周りがめちゃくちゃかっこよくなりましたよね。館内も明るくなった感じがするし、エレベーターが広々していたのも印象的。
また、東京都現代美術館も長いお休みが明け、リニューアルオープンとなりました。ミナペルホネンの展覧会はまだ行っていないので、年が明けたら行ってみよう。
逆に、もうすぐ移転してしまう美術館も。
金沢に移転してしまう東京国立近代美術館工芸館には「竹工芸名品展:ニューヨークのアビー・コレクション―メトロポリタン美術館所蔵」を観に行きました。アビー・コレクション所蔵の竹工芸作品と工芸館所蔵作品を合わせた展示は、伝統工芸との軽やかな共演が見事で「金沢に行かないで~(泣」と引き留めたくなってしまうほど。
あとは写真OKの展覧会が増えたことにより、さまざまな影響があったなというのも今年の動きのひとつであった気がします。個人的にはこうやって振り返ったときに画像があると記憶が引っ張り出しやすいので、何らかの形でOKの場所があると嬉しいなとは思いますが、トラブルが続くと考えちゃうわな。増えたと言えば、声優さんを起用した音声ガイドも増えましたね。前野智昭さん、はよ!
ほかに美術の在り方というか、受け取られ方やコンセプトを伝える方法などについても、いち素人鑑賞者として考えるところがありました。
そうそう、保存や修復に着目した展覧会が多かったのもありがたかった。知らないことがたくさんあったし、何よりも材料や職方の不足により強い危機感を持つことができました。こういうのは観て終わりにしてはいけないな。
先にも書きましたが、チケットを並べたり自分のTwitter等を遡ってみると、「なんだかんだ言って2019年もたくさん面白いものを観たなあ」ということが分かりました。
備忘録として印象に残っているものをはろるどさんのブログに倣って以下に残しておこうと思います。
さあ、来年はどんな鑑賞の機会に恵まれるかしらね。とても楽しみです。
※リンクが貼ってあるのは、自分のブログもしくは、いまトピの記事です。
- イケムラレイコ 土と星(国立新美術館)
- 鹿島茂コレクション アール・デコの造本芸術(日比谷図書文化館)
- 食の器(日本民藝館)
- マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン(三菱一号館美術館)
- 印象派への旅 海運王の夢─バルト・コレクション─(Bunkamura ザ・ミュージアム)
- トム・サックス ティーセレモニー(東京オペラシティ アートギャラリー)
- 国宝 東寺 空海と仏像曼荼羅(東京国立博物館)
- 印象派からその先へ―世界に誇る吉野石膏コレクション(三菱一号館美術館)
- 美と、美と、美。 資生堂のスタイル展(日本橋高島屋)
- 円山応挙から近代京都画壇へ(東京藝術大学大学美術館)
- 奥の細道330年 芭蕉(出光美術館)
- 名勝八景 憧れの山水(出光美術館)
- バスキア展 メイド・イン・
ジャパン(森アーツセンターギャラリー) - 窓展(東京国立近代美術館)
- エドワード・ゴーリーの優雅な秘密(練馬区立美術館)
- 正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―(東京国立博物館)
- シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート(ポーラ美術館)
- 岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟(東京都庭園美術館)
- みんなのミュシャ(Bunkamura ザ・ミュージアム)
- 美を紡ぐ 日本美術の名品 ―雪舟、永徳から光琳、北斎まで―(東京国立博物館)
- 三国志(東京国立博物館)
- 日本刀の華 備前刀(静嘉堂文庫美術館)
- 両陛下と文化交流(東京国立博物館)
- ラファエル前派の軌跡展(三菱一号館美術館)
- 館蔵ミニチュア展 小さなものの大きな魅力(たばこと塩の博物館)
- キスリング展(東京都庭園美術館)
- ロマンティック・ロシア(Bunkamura ザ・ミュージアム)
- 奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド(東京都美術館)
- ル・コルビュジエ 絵画から建築へ─ピュリスムの時代(国立西洋美術館)
- クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime(国立新美術館)
- 新・北斎展 HOKUSAI UPDATED(森アーツセンターギャラリー)
- ジュリアン・オピー(東京オペラシティ アートギャラリー)
- 原三渓展(横浜美術館)
- ムーミン展 THE ART AND THE STORY(森アーツセンターギャラリー)
- 美ら島からの染と織(渋谷区立松濤美術館)
- 坂本繁二郎展(練馬区立美術館)
- Meet the Collection ―アートと人と、美術館(横浜美術館)
- もののけの夏(国立歴史民俗博物館)
- 異世界への誘い─妖怪・霊界・異国(太田記念美術館)
- 小原古邨(太田記念美術館)
- メアリー・エインズワース 浮世絵コレクション展(千葉市美術館)
- 終わりのむこうへ : 廃墟の美術史(渋谷区立松濤美術館)
- カルティエ、時の結晶(国立新美術館)
- 茂木本家美術館の北斎名品展(すみだ北斎美術館)
- 非常にはっきりとわからない(千葉市美術館)
- ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン(Bunkamura ザ・ミュージアム)
- 話しているのは誰? 現代美術に潜む文学(国立新美術館)
- 顔真卿 王羲之を超えた名筆(東京国立博物館)
- 線の迷宮〈ラビリンス〉Ⅲ 齋藤芽生とフローラの神殿(目黒区美術館)