雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

横山大観展 ―良き師、良き友―展行ってきた

横浜美術館

夜間特別観賞会に申し込んだところ、運良く当選することができたので行って参りました。 奇しくも日中、山種美術館速水御舟展」へ行っていたので、リンクするところがたくさんあって嬉しかった。 ためになるレポートは他の方が書いていらっしゃると思うので、いつものように私はスキマ産業でご紹介しますね。 

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まあ、これ↑見てわかるようにですね、山口晃さんが絡んでいるということもあって楽しみにしていたんです。っていうと失礼なのですけれども、以前東博で行われた対決展以来の似顔絵。これだけの(濃さの)人が出てくるんだな~という印象を与えてくれます。

大観、若いころイケメンなんだけども、菱田春草の方がモテたのだそうな。 乙女ゲーでも菱田春草は可愛く描かれていますね。ていうか、菱田春草の奥さんがアイドル系女子アナかってくらい可愛いのですよ。

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引用:「明治東亰恋伽」公式サイトより
(追記:2018.6 「明治東亰恋伽」、2018年になって新キャラとして実装された横山大観はcv.前野智昭のイケメンでした) ※写真は美術館の許可を得て撮影しています。

良き師 岡倉天心


さて、今回の展覧会は全部で3章に分かれています。

第一章:良き師との出会い:大観と天心
1)天心との出会い
2)日本美術の理想に向けて
第二章:良き友、紫紅、未醒、芋銭、溪仙:大正期のさらなる挑戦
1)水墨表現と色彩
2)構図の革新とデフォルメ
3)新たな主題の挑戦
第三章:円熟期に至る

横山大観については、岡倉天心と一緒に五浦に行った人で「生々流転」や富士山が有名な人、そして「西の栖鳳・東の大観」と言われ竹内栖鳳(近美なう)と双璧をなした近代日本画壇の巨匠っていうイメージでいましたが、いろいろエピソード持ってる人でした。
最初から美術一本ではなかったそうです
父親の影響で建築系に進む予定だったから東大受けたんだけど学科(?)の重複受験が実は駄目だったらしく失格になって、仕方ないから外語学校行って、そこ卒業して(大観はバイリンガル)さてどうしようかなって思ってたら東京美術学校ができるっつーから行ってみたら岡倉天心が先生だった、というところからやっと絵の道スタート。

────って言う感じで第一展示室が始まるわけですが。

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アレこと《屈原》 厳島神社
いきなり「教科書に載ってるアレ」がいるんでびっくりなんですよ。
でも、その手前にかかっているこれ↓
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左:《写生(風呂敷包み)》 右:《写生(蓮根、くわい)》

屈原》に比べて素朴なんですが、とくに《風呂敷包み》、とても良かった。初期はこういうかんじだったんですね。
今回の展覧会で好きな絵3つ挙げろと言われたら、これ入る。余白の割合と、風呂敷の垂れ具合がなんとも好みでした。
いかにも「大観!」「大観っていったら富士山!」みたいなのよりも、「こういうのも描いていたのか」という発見があったのが、この展覧会の面白いところかもしれない。

屈原を観るならお早めに


で、教科書にも載っている《屈原》はなんと10月16日までしか展示されないというので、観ておきたいという方は本当に早めに行った方が良いと思います。普段は厳島神社に奉納されており、めったに出ない作品だそうで……。

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屈原

屈原」は中国・春秋戦国時代を代表する詩人兼政治家であり、陰謀によって濡れ衣を着せられ追放、入水自殺をしてしまうというところから、似た境遇にあった岡倉天心屈原に見立てて描かれた絵です(ちなみにこの屈原の事件が端午の節句のルーツだとか…)。
今まで紙面でしか見たことがなかったので気付かなかったのですが、この絵に2羽鳥がいるのです。黒い鳥(右下)と、白い鳥(屈原のすぐ隣)。
この2羽が、まー目つき悪いったらなくて、「シャークマウス」みたいな顔してるの。
屈原は天心に似せてあるってこともあってリアルなんだけど鳥が漫画っぽくて、なんとなくここが大観の描く「顔」の分かれ道っぽいっていうか(完全な憶測ですけども)、ああシャークマウス路線を取ったのねっていう。
あと、屈原の背後に白いもやが湧き出ていて、これも紙面で見ると大して気にならなかったんだけど、実物見たらすごく目立つ。ここに突如白いもや入れるって勇気要るよな、でもこれないと画面が締まらない。
つい最近まで建築目指してた人なのに、これができちゃう人なんだなあという驚きがありました。

虹を朦朧体で


さて、美術学校でひと悶着あったあと、岡倉天心横山大観たちは「なんとか光を描けないだろうか」という実験を繰り返し、「朦朧体」という、もや~んとした絵を編み出します。
これがまた当時の画壇からバカにされまくってとうとう村八分を食らうわけですが、最近観た山種美術館の展覧会て朦朧体系多いのよね。
昼間観に行った速水御舟も、この前みた川合玉堂も。雨が降った後の朝や月がほんのり照らす夜の、あのぼんやりした淡い光をどうにかして描きたいってことなんだけれども、大観はそれを虹でやっていました。

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《雨後》
淡い色合いが素晴らしくかわいい。
 

五浦のスケッチはめちゃくちゃおしゃれ


他にスケッチも展示してあって、これは天心たちと五浦に移ってから描いたものなのですが、なんというか、とってもおしゃれです。

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上:《五浦スケッチ》 下:《三溪園スケッチ》

いやあ、なんか五浦での思い出って臥薪嘗胆なイメージがあったんだけども、この絵観ると女子力高いガイドブックみたいな感じですごく良いなあと思ってしまったのですよ……。この絵もこの展覧会ベスト3に入るな。

 

さて、天心との師弟関係セクションはここで一旦おしまい。
ここから先は、”良い友四天王”こと「紫紅、未醒、芋銭、溪仙」たちの絵を交えて大観の世界が広がります。

良き友 紫紅、未醒、芋銭、溪仙


同じ日本美術院の中であってもそれぞれ違うグループだった彼らは、時に対立する関係から友へ、時に大観がスカウトして、といった具合に交友を深めます。(今村紫紅速水御舟、小茂田青樹の先輩。)
彼らは天心亡きあと、東海道五十三次にスケッチ旅行にでかけます。それは新聞でも報道されたほど。昼間はスケッチに明け暮れ、夜は宿で誰が一番変な顔ができるかという変顔大会に明け暮れたそうです。

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5人の合作《東海道五十三次絵巻》の落款。わ、ワイン…??

 

 

5人とも個性溢れる画風なんだけれども、個人的にツボだったのは小川芋銭(うせん)。
大観が芋銭をスカウトした切っ掛けとなった「肉案」という絵がすごすぎるwww

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小川芋銭《肉案》

 \(^o^)/

大観は「芋銭は中国の故事をとても良く理解しており、それを忠実に絵として表現できる才能を持っていたからスカウトした」って言ってるけども…絶対「なにこいつすげー面白いwww」っていうノリだったと思うのよね。この絵を観ると。まじめに故事云々思う以前に、インパクトがすごいもんなあ。。。
芋銭は挿絵や時事漫画を描いていた人だそうで、会場には他に河童やあやかしを描いた絵が来ていました。「河童の芋銭」とも呼ばれた彼の描くそれらはとても穏やかで、水の中にたゆたうような気持ちに。


大観、円熟期へ


そして展示は第三章の「円熟期」に入るのですが、ここであの「生々流転」(の習作)が。

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《生々流転》 習作

以前、近代美術館で働いていたことがあり、そこでは毎日のように「生々流転は何階に展示されていますか?」という質問を受けていました。
それくらい人気のある《生々流転》。
あれは単なる山水画じゃないんですよね。タイトルのとおり、穏やかなところから始まって、あらゆるものを経て、漆黒の嵐の中を抜け、静かな海に至り、また始まりに戻るという円環。闇の中に静かに収束し、光を浴び、また闇に戻る一生のようなもの。

大観はおそらく「暗さ」や「闇」に対して美しさや凄まじさを感じていたとは思うのですが(フクロウがかわいらしい<夜>という作品も、闇の部分は”まっくら森のうた”の如し。ちなみに現在の山種にも似た構図のものが出ています)、普段の絵からどういう切り替えで、あの暗雲を描いたのだろう。
富士山に対する神聖視ともまた違う。ところどころの絵から、その渦巻く闇を描く姿勢への入口が垣間見えるのだけれど、肝心な終点には辿りつけない。もう少しのところで、煙にまかれてしまうのです。まるで目の前にいきなり秋の森が広がって鮮やかな木々に目がくらんで茫然としてしまうときのように。または、鬱蒼と木々の生い茂る秘密の庭に招かれて、ここが現実なのかわからなくなってしまうように。

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《秋色》※部分 一番上の画像でも紹介されている、琳派の要素を取り入れた六曲一双の屏風絵。

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《千ノ與四郎》※部分  千利休が19歳の時の逸話を表した絵。こちらも六曲一双の屏風。

いかにも大観らしい作品というよりも、広く作品を観ることで、自分の中の横山大観に対するイメージがかなり広がったように思えます。

描く女の人の顔が皆似ているだとか、みんなが珍妙に描く寒山拾得がとても紳士的な顔に描かれているとか、様々な流派を学んできても自分の押さえようとするところはきちんと混じらないように遺していたのだな。
山口晃画伯のトークショーに行って画伯の話を聞いた後にもう一度大観を観て、またなにか見つけられたら良いなと思っています。

最後にもう一人、小杉未醒の、《桃源漁郎絵巻》。
浦島太郎的な話を絵巻物にしたものなのだけれど、「リア充ぼっち圖」に見えてニヤニヤしてしまいました。

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小杉未醒 《桃源漁郎絵巻》※部分

大観自身も大変個性的ですが、師の天心、そして友人たちのキャラが濃すぎて、そりゃ個性が磨かれるよなと微笑ましくなる展覧会。
良き師と良き友に恵まれた大観、まさにその関係は「相見呵呵笑」という言葉のようでした。
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横山大観(1868-1958)
 

概要

横山大観展―良き師、良き友―
・会  期:2013年10月5日(土)~11月24日(日)
・会  場:横浜美術館
・休 館 日:木曜日
・時  間:10:00~18:00(最終入館17:30)

yokohama.art.museum