雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

今日あった不思議な出来事

「世の中にはふしぎなことがあるもんだなあ」

そう思ったことはありませんか?
その時は大して気にも留めなかったことが、後々めぐりあわせを生むような。

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私は今まで何度か不思議な出来事に立ち会ったことがあるのだけれど、今日またそういったことがあったので(そして個人的にちょっと素敵で気に入っているので)、せっかくだし日記に残しておこうと思う。

 

 

今日は朝から人身事故の影響で電車に遅れが出ており、いつも以上に混みあっていた駅では、溢れんばかりの人でホームに降りることもままならないくらいだった。
なんとか乗り込んだ電車も歩いたほうが速いのでは……というスピードで、人々に圧し潰されながら、酸欠になりながら、這う這うの体で出勤した。

一日中具合が悪く、一刻も早く帰りたい、帰って横になりたいと願いながらやり過ごす。しかし帰りの電車の中、ぼんやりした頭で開いたTwitterを見た瞬間、一気に我に返った。

 

それはよくある「この写真の場所を知っている方、いますか?」というSNSを使った呼びかけだった。亡くなってしまったご家族が遺した写真だそうで、場所がどうにもわからないとのこと。

大体においてそういったツイートのお役に立てることのない私は、RTをして終わってしまう。けれど今回は違った。

 

────私はこの場所を知っている。

 

直感でそう思った。
知っているけれどそれが何という建物か名前がわからない。
ええと、どこで見たっけ? 確か京都。京都の、あれは南禅寺に向かう道だった? いや違う。あれは、あれは……

泉屋博古館

思わず声が出てしまった。
そうだ。あれは泉屋博古館へ向かう道沿いにある建物だ。
以前京都へ行ったとき、車の中から何とはなしに見た建物。
京都ではさして珍しくもない料亭のようなつくり。でもなぜか私はそれに目を引かれたのだった。

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泉屋博古館

けれど違うかもしれない。だってそんなに建物に詳しいわけじゃないし、道路沿いからちらっと見ただけだし、そもそも車の中からぼんやり眺めていただけで記憶自体が怪しいし。

冷静に考えるとありえないことだ。しかし、それでもどこかで「いや、ここは私の知っている場所だ」という確信は消えずにいた。
さっきまで頭痛と眩暈に襲われていた脳内はめちゃくちゃ冴えわたり、ぐったりしていた指はてきぱきと動いてGoogle マップを起動させる。

まずは泉屋博古館を検索する。履歴のせいで東京の分館が表示されてしまい、やきもきした。違う、京都だ。もう一度検索する。
次に現れた画面の左下にあるストリートビューを起動させる。丸太町通を、そう、天王町の交差点に向かって西に下ると……

「……あった」

この時の気持ちをどう表現したら良いだろう?
鳥肌が立つような? 総毛立つような? とにかくゾワっと全身が戦いた。
道路からちらりと見えるその建物は、ツイートに添付されていた建物と同じかどうか、この角度からは検証できない。しかし自分の中には「絶対にここだ」という確信があった。

あの日、あんなにぼんやりと窓の外を眺めていたのに。ほかのことは殆ど記憶にないのに。
この建物だけは、なんとなく覚えていたのだ。
きっと今日の、この時のために、私の意識はここに吸い寄せられていたのだろう。

 

この角度からでは何とも言えないので、今度はマップで得た情報から、建物の名前で検索する。
するとほぼツイートに添付された角度と同じ角度の写真が表示された。
良かった。きっとここだ。生け垣が多少違うような気もするけれど、屋根の角度も松の植え込みも、その他の意匠も同じ。これならツイートされた方にお知らせすることができる。

 

かくしてご本人にリプライを送ると、ここで間違いないということだった。
まさか自分がこういった種類のお役に立てる日がくるとは思いもよらなかったが、喜んでいただけてとても嬉しかった。

そして同時に、時折起こるこういった「無意識下の役割」のようなものは何なのだろうと不思議に思った。
あの日の自分の記憶が、こうして見ず知らずの方の役に立つことができたという繋がり。あんなふうに、車の中から一瞬、しかも角度なんてあやふやなまま見たものになぜ引かれたのか。注意深く見ていたわけでもないのに、確信を持てるほど記憶に残っていたのはどうしてなのか。

そして、こういったことはなぜ起こるのだろうか?

とても、とても不思議だ。
自分の役割が終わったと同時に、先ほどの具合の悪さが一気にぶり返してきてよろよろと電車を降り、家路を急ぐ。
家に帰り、ストーブをつけ、部屋着に着替えてストーブの前に寝転がった。

そしてもう一度、考える。
不思議だ。
でも、この不思議な出来事に遭遇するたびに、目には見えないとてもきらきらとした何かが降り注いでくれることを私は知っている。

願わくはまた、こういった不思議な出来事に出会えますように。

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※冒頭の写真は、東京都現代美術館で行われた「吉岡徳仁―クリスタライズ」展の撮影OKスペースにて撮影したものです。このエントリには全く関係ありませんが、なんとなく今の気分にぴったりだったので。