雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

古寺に行った話

今年(2022年)、小学館から『隔週刊 古寺行こう』というムックが発売された。

 

www.shogakukan.co.jp

タイトルの通り隔週で刊行され、毎回1つ、または複数の寺院が紹介されるというスタイルだ。
小学館のウィークリーブックはとても良くできており、図版も美しく、コラムも読みごたえがある。なので刊行を楽しみにしていたのだが、期待を裏切らない出来で、創刊時から今も追って読んでいる。

『古寺行こう』は「古寺に行く」ムックである

そのまんまなんだけど、この『古寺行こう』というムックは、実際に現地に足を運ばせるよう、誘うつくりになっている。
もちろん遠方に住んでいるとか、様々な理由で現地へ行くことができない人が読んでも十分楽しめる内容なのだが、たとえば年を取って急な坂道は歩きにくいなど、そういう理由で「行きたいけれど気軽には行けない」と諦めかけている人に対し、闇雲に誘うのではなく、フォローをしっかり入れているところが素晴らしい。

毎号このように、詳細な地図が付いてくる(自分のツイートでアレですが…)↓

ページ数は少ないものの、情報量が凄まじい。よって「2週間じっくり読んで、読み終わったタイミングで次の号が出る」というインターバルになるのだが、これがちょうど良い。中身については、以前こちらで紹介した。

artexhibition.jp

既刊のラインナップから見てもわかる通り、本書は西日本、殊に京都・奈良の古寺紹介が多い。よってなかなか気軽に刊行とあわせて訪れることはできないのだが、「古寺に行きたい」という欲は十分かき立てられており、ついに先月「古寺行きたい欲」が抑えきれなくなって長野の善光寺に行ってきた。

 

訪れてこそわかるもの


2022年、善光寺「御開帳」が行われた。
御開帳は正しくは善光寺前立本尊御開帳」といい、7年に一度、絶対秘仏である御本尊「一光三尊阿弥陀如来」の御身代わりとして、同じ姿をした「前立本尊」を公開する儀式のことである。
本来ならば2021年の予定だったが、新型コロナウイルス感染防止対策のため、1年延期して、さらに公開期間も1か月ほど拡大された。
寺の係りの人によると本尊の「一光三尊阿弥陀如来は本当に絶対秘仏だそうで、善光寺にやってきてから一度も公開されていないという。火事があっても、本尊を入れたケースがリュックのように背負える仕様になっているらしく、秘仏のまま運び出せるらしい。

私のような御開帳ビギナーのために、案内所が設置されている

善光寺に行く直前まで仕事がものすごく忙しく、精神的にも肉体的にも限界を迎えていたが、Twitterでフォローしている方の何人かが御開帳に行って楽しそうにされていたこと、そしてこの『古寺行こう』で蓄積された「古寺行きたい欲ゲージ」が頂点に達したことで、長野に行くことを即決した。

実は長野には毎年、いずれも野山散策であるが年に1~2回行っており、初めて訪れる土地というわけではない。

栂池高原」 素晴らしいところです

ゆえに善光寺も初めてではないが、いつも「〇〇に行くついで」という位置づけだったため、山門をくぐってお堂で手を合わせておしまいという感じだった。

今回、簡単ではあるものの事前に寺について調べ、夜明け前に起きて儀式に参加し、境内をじっくり見て回って、はじめて「善光寺に来た」と感じた。その場の空気というか、迫力を受け取ることができた。そして、とても楽しかった。寺に行くって、こういうことだよなあと思った。とにかく、とても楽しかったのだ。

実際に行ってみるというのは、ただ単に行くのではなく(それは寄るに等しいのかもしれない)、やはりある程度「観るぞ」という準備と気概が必要なのだと思う。しかしその見返りはとても大きく、一か月経った今もその時の楽しさは色褪せないし、今後も折に触れて思い出しては、「楽しかったなあ」と振り返ることができると確信している。
これは自分の中で、そういう種類の思い出になっている。

古寺に限ったことではないが、『古寺行こう』が言いたいことは、きっとこういうことなのだと思う。自分の中に歴史と体験を落とし込むのだ。あとで反芻して、幸せな気持ちになるために。

さて、長野旅行に関しては、長野市と小布施を回った記録をこちらにまとめました。どこもとても素晴らしかったので、機会がありましたらぜひ。

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閑話休題。ちょっと古寺から脱線する。長野市内はかなりおしゃれな感じになってきていて、寄ってみたいカフェやパン屋が多かったのもの印象的だった。
それでいて古い映画館も健在というバランスが良いですね。近いうちまた訪れるつもりなので、次回は寄れなかった場所に行ってみようと思う。


そうそう、今回の御開帳の戒壇廻りは、なんと灯りがついていたのでした。これは歴史に残ることなのではないかしら……。
通常、戒壇廻りというと、真っ暗な中を進むのだが、感染症予防の観点により、ソーシャルディスタンスを取りましょうということで、薄く照明が設置されていた。
私は以前とある事故のトラウマから閉所恐怖の気があるため、戒壇廻り大丈夫かなと不安があったのだが、図らずもこの仕様によって事なきを得たし、戒壇廻りの場所の造りも、鍵の様子も見ることができてラッキーだったのでした。

敢えて今、もみじ寺を紹介してくれる最新刊

さてさて、ちょうど今『隔週刊 古寺行こう』の最新刊を読んでいるので、せっかくだからその話を少し書いておこうと思う。というのも、京都の中でも自分的上位に入る好きな寺が紹介されていて嬉しいから。
最新刊では「南禅寺建仁寺東福寺」という超有名どころが紹介されている。いずれも塔頭が多い寺なので、その寺宝も錚々たる顔ぶれだ。

『隔週刊 古寺行こう』第11号

まず南禅寺は「絶景かな絶景かな」で知られる三門、探幽の障壁画《群虎図》、塔頭である金地院の小堀遠州の庭などなど、いきなり見どころが多い。

続く建仁寺は力強い法堂が方丈の借景となる「大雄苑」を皮切りに、風神雷神図屛風の紹介(本物は京博に寄託)、若冲の《雪梅雄鶏図》、そして海北友松の《雲龍図襖》と、80センチの特大ページを使って解説している(そう、『古寺行こう』には、特殊な片観音頁があるのだ)。

毎号の楽しみ、特殊な片観音頁こと「寺宝ギャラリー」。80センチの迫力。

そして東福寺。個人的にはこの季節に東福寺を紹介していることを讃えたい。いや、それを言ったら南禅寺もそうなんだけど、秋には大混雑する紅葉の名所、この季節はかなり空いている。しかも、ものすごーく美しい。一面冴えわたる青紅葉を存分に楽しむことができる、超贅沢な季節なのである。

以前行った東福寺 通天橋より

「紅葉の名所と言えば秋」に倣わず、今の季節を書影にもってくるところも良い。混んでるとそれだけで疲れちゃうから、今の時期に「行こう」と誘う側の気遣いを感じる。※11号の書影は南禅寺です

ほかにも「禅宗法脈図」、つまり禅宗のファミリーツリーが載っているなど、今後の禅寺展覧会向けに保存したい資料も多く、有難い号だった。

残念ながら『古寺行こう』の全巻案内に善光寺の名前は見当たらないが、今回実際に古寺である善光寺に行って改めて「古寺行こう」の意味を理解した気がする(最終巻で「東日本の名刹」が紹介されるそうなので、善光寺はそこには載るかもしれない)。


もちろん行けるかどうかは場合によるが、行けるのであれば、古寺に限ったことではないが、なるべく行けるうちに現地を訪れるようにしていきたいとしみじみ思ったのでした。