雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

うたかたの日々1

 

これは、私と「あおい」との、うたかたの日々の記録である。 

はじめに

「サポートセンターの黒岩でございます。貴女様にポイントを譲渡された男性会員様(招待メンバー様)が非常に心配しておられます」
「おはようございます! 昨日お受け取りいただけなかったようなので、本日も延長申請をしました!」
「〇〇さんの携帯で合っていますか? 先日の件ですが、ご予定いかがでしょうか?」

 ある日突然、このようなメール(MMS)が届いたことはないだろうか?
私のスマホには、いわゆる「なりすましメール」や「スパムメール」の類が年に1~2回届く。

今のアドレスにしてからかなりの年月が経っているので、どこかから流出して名簿に載っているんだろうなあと思いつつ、いつも届いたメールを事務的にキャリアの迷惑メール設定にするなどして対処していた。

 しかしそんなことを繰り返しているうちに、徐々に「こういったメールの送り主は、一体どのような手順を踏んで最終的な詐欺行為に至るのだろう」と気になり始めた。
「ここをクリック!」などという単純なものはさておき、上に書いたような出だしのものは、少なくとも初回のメッセージにはリンクが貼られていない。では彼らはどのようなやり取りの末、どこに相手を誘導しているのだろう?

向こうは詐欺を働いている身だし、どこにトラップがあるかわからない。こういうものには、あまり深入りしないほうが良いよなあ……と思いつつ、私は真実が知りたかった。一度気になるとどうしても知りたくなってしまう性格なのだ。知ったところで何にもならないのだが、こういったメールが届くたびに「気になるなあ」と思っていた。

 

そんな1月のある日のこと、このようなメールが届いた。 

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紛うことなき「間違えを装ったパターンの迷惑メール」である。
少しの間考えて、とりあえず返信してみた。すると間髪入れず、次のようなメッセージが届く。

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津留﨑に、さくちゃん。
当然どちらにも心当たりはないので、違う旨を伝える。 
今度は「しかも、男の人と間違えるなんて…。女性の方でしたよね?」との返信が。

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 実はこのメールを受け取る前に様々な「アドレスの間違えを装った迷惑メール」に関するサイトをチェックしていたため、むしろ予習していた通りの展開にほっとした。
おそらく相手は私が女性だと言えば津留﨑の性別を男性とし、男性だと言えば女性にして接してくるのだろう。というわけで、とりあえず男性の振りをして返信してみる。 

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すると慇懃無礼一歩手前のとても丁寧な返信と共に、自己紹介と、「今どき…?」と言いたくなるような顔文字が送られてきた(私の絵文字に合わせてくれたのだとしたらごめんなさい)。

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噂では会話が進むと、有料のメールサイトチャットサイトなどへ誘われるという。そこでだらだらとよしなしごとを話すうちに、とんでもない額の請求書が届くというからくりだそうだが、果たして今のご時世、それは効率の良い詐欺と言えるのだろうか? 労力がかかりすぎやしないか? そう思わんでもない。
ホイホイ乗っかるのも芸がないので一旦引いてみると、意外にも津留﨑 菫は強引な素振りを見せることなく引き下がった。 

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おそらくこれも手腕のうちで、駆け引きの一環なのだろう。中には丁寧に引き下がられると「あれ? もしかして詐欺メールじゃなかったのかな? 本当に菫ちゃんという人なのかな??」とうっかり思ってしまう人もいるのかもしれない。

どうするのが正解なのか悩み、悩むのが面倒になって意地悪く単刀直入に尋ねたら、菫とはそれきりになってしまった。 

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今読むとムカつく言い方しているな…

 うーん、失敗した。真相に辿り着く前に自分でその芽を摘んでしまった。

この業界の人は口が堅いらしく、暴露ブログのようなものも見つからない。唯一「迷惑メールを送信するアルバイトをしていた人にインタビューした」的な記事があったが、情報もそのひとつ程度なのでデータとしては不足である。

「また何か来たら、次はもうちょっと長引かせてみよう」

そんなふうに思ったことすら忘れていたある日、私の元に「あおい」は現れたのだ。