雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

「幽霊・妖怪画大全集」 行ってきた 其の弐(ちょっと怖い話)

@そごう美術館(横浜)

前回の続き。

nijihajimete.hatenablog.com

────を書こうと思っていたのですが、トークをメモった字が汚すぎて読めないという……。
様々な系譜を話し込むスタイルの前半から、スライド見ながら小ネタをポンポン披露していく感じのトークに移ったということもあり、話題に上ったネタを箇条書きで書いていきます。

幽霊画の小ネタあれこれ


プライスコレクション:呉春の《柳下幽霊図》


これは呉春が幽霊を描いて、弟子の松村景文が描表装として柳を描いた合作。
離れて見ると柳の下に幽霊がたたずんでいるように見えるという洒落た作品ですが、なんとこれを購入したのち、購入に反対していたエツコ夫人にいろいろ良くないことが起きたそうです……。
「まさかあの絵、買ったんじゃないでしょうね!?」と言われ、プライスさんは焦ったとか。
現在日本にやってきていますので(福島会場にも来ているはず)、生で観る機会はありますよ~。


子どもの頃から凄まじかった川鍋暁斎


暁斎、9歳の頃、斬首された首を拾ってきてスケッチしていたそうです。
今回の展覧会には来ていないけれど軸から飛び出している幽霊も描いていて、貞子を先取りしすぎ。
実際そういった表現は歌舞伎にもあったようですが、当時の歌舞伎で、二次元から飛び出してくる幽霊をどういう仕掛けで表現していたのか気になります。


まさかの電話


以前雑誌『太陽』で、河村長観という画家を取り上げた中山さん。
「この河村長観という画家は、情報があまりないため特定はできないが、吉川観方の流れを持っているように思える」と紹介したところ、雑誌が出て暫く経ったある日、一本の電話が。
「河村長観と申します」
────!!!!!! (この瞬間、会場の気温がざざっと下がる)

……なんのことはない、御存命の方だったのでした。
そして推測は当たっていて、吉川観方のお弟子さんだったそうです。
しかし昨年河村画伯はお亡くなりに。


新発見の百鬼夜行のゴールとは?


いろいろなバージョンがある百鬼夜行
今年見つかった天草版の妖怪たちのゴールはなんと「節分」でした。
軒先に柊といわしの頭が飾ってある、あの家がゴール。これはとっても珍しいものだそうです。
会場に来ているのは尾形守房によるもので、黒田藩の御用絵師だったそうな。ちなみにこの展覧会を企画された福岡市美術館の学芸課長中山喜一朗さんのYKI推しメンは、百鬼夜行の窯の妖怪・コードネーム「人見知り」。
左側にいる黒い子です。

f:id:nijihajimete:20180615151902j:plain
尾形守房《百鬼夜行絵巻》福岡市博物館HPより

ちなみに百鬼夜行のような佐脇嵩之の《百怪図巻》も素敵でした。
きっと水木先生はこれをもとに「ぬらりひょん」や「のっぺらぼう」を描いたんだろうな~。というくらい、個性的な姿の妖怪がたくさん。


展覧会で実際に起こった「怖い話」


さてお待ちかね。怖い話ですよー。
今回質疑応答の際に「こういう展覧会を開催するにあたって、お約束の”怪奇現象”とかってありました?」と、なんともユニークな質問をされた方がいらっしゃいまして、会場には「よくぞ聞いてくれた!」という静かなどよめきが。
流石にそういうのは~……という流れになるかと思いきや、「ありましたよ!」と中山さんより力強い一言。ヒャッホー(人´∀`)


応挙の幽霊が送ったメッセージ


先日のエントリにも書きましたが、俗に言う「応挙の幽霊」。
この作品には美人の幽霊とは別に(ごめんね)、歯ぐきむき出しの幽霊画がありまして、以前福岡で幽霊画の展覧会をやった際に地元のテレビがやって来て、この幽霊について取材をしたそうです。
そして後日────。
当日取材に来ていた女子アナから、あの日から毎晩枕元にあの幽霊が立つようになってしまったとの連絡が。
はじめは印象が強かったのかしら~と楽観視していたそうですが、2カ月たっても現れ続ける幽霊に、さすがに精神的にも参り始めてとうとう仕事に行けなくなってしまったそう。

藁にもすがる思いで霊能者のもとへ行くと、「その幽霊はあなたを心配している。体を悪くしているから早く病院に行った方がいいよと言っている」とのこと。
半信半疑で病院へ行くと、即入院の即手術という状態だったそうです。
早期発見できたおかげで命を取り留めることができましたよと医者に言われ、退院後無事仕事に復帰できた彼女は再び中山さんに連絡を入れ、「ぜひあの幽霊に会わせてください。そしてお礼を言わせてください」と元気な顔を見せてくれたということでした。
めでたし、めでたし。


警備員を襲った怪異


さあいよいよ展覧会がはじまるぞと幽霊・妖怪画を並べたその夜、展示室の警報機が鳴り響きました。
価値のあるものが多いからと急いで警備員が駆け付けると、そこには誰もおらず、ただ幽霊たちが絵の中からこちらを見つめるだけ。
気味の悪さを感じつつ、故障だろうかと業者に連絡。
しかし翌日も同じように警報機は鳴り響き、挙句自動ドアまでもが勝手に開閉するようになってしまったそうです。
ついには警備業者が「もう恐ろしくて警備したくない!」と音をあげてしまったとか。
大阪で展覧会を行った際にも、電動式の展示棚が「とある絵」を入れると動かなくなってしまうというトラブルが……。

「いろいろありましたけど、うちの子たちはみーんないい子たちですよ!」と中山さんは仰っていましたが、「今夜から私一人で、夜、会場の点検をするわけで…」とそごう美術館の学芸員さんが力なく笑っていらしたのがこの日のハイライトでしたね!(笑)


目玉のひとつは「幽霊たちのガールズトーク


さて、様々なエピソードがつまった幽霊・妖怪大全集も、残すところあとわずかです。
肉筆画のほかに浮世絵もたくさん。
今回目玉のひとつでもある、吉川観方の《朝露夕霧》は、番町皿屋敷のお菊とお岩(怪談の二大ヒロイン)が向かい合ってガールズトークをしているという絵です。
右手には、朝のメイクに余念のないお岩。そして左手には夕方蚊遣火を焚くお菊。

f:id:nijihajimete:20180615151810j:plain
吉川観方《朝露夕霧》

これ、戦後に描かれたものなのですが、日本の画壇がどんどん洋画へ転向していくなかで、江戸絵画のスタイルをしっかり保った上で、且つ新しい時代のユーモアを見事に取り入れた素晴らしい幽霊画です。
そう、幽霊画や妖怪画って、怖いだけじゃなく、ユーモアだったり粋なかっこよさを併せ持っていないと駄目だというめちゃくちゃハードル高いお題なのです。
だから作家の個性が引き立つし、中二くさくも魅力的。
それだけ詰まっていたら、そりゃファンもつくわなー。幽霊や妖怪より社会の方がずっと怖い世の中になったところで、それでも人を惹きつけるのは、やっぱりぐっとくるほどセンスがいいから。

怪奇現象は苦手だけれど、小粋な妖怪・幽霊画は、今後もチェックしていきたいなと思わせる内容でした。


今年は皆さん大忙しだね。
お疲れ様だよ~!

f:id:nijihajimete:20180615151950j:plain
「疲れた…もうなにもしたくない…」 円山応心 《妖怪図》