雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

川合玉堂展行ってきた

遅くなりましたが、先日ブロガー内覧会へ参加してきたので、その模様をば。

皆さんは川合玉堂、知っていますか? 私は「早乙女」という田植えをしているカワイコちゃん達の絵と、近代美術館にある「行く春」くらいしかハッキリ分かるものがなく…そんなわけでこの日はまさに玉堂デビューでした! 「景色を人ごと絵に閉じ込めた画家」 それが本展覧会から得た、私の玉堂のイメージです。

玉堂についてざざっと簡単に紹介すると… 1873年に岐阜で生まれた玉堂は、京都で円山四条派(絵の流派)を学ぶのですが、狩野派系の橋本雅邦のファンになり、雅邦に弟子入りするために家族を連れて東京へ。

それからいろいろな流派を巧みに取り入れてはアウトプットしながら才能をじゃんじゃん延ばしていくのですが、横山大観竹内栖鳳の影にかくれあまり名前は知られていません。 でもね、玉堂は大観とならぶ巨匠だったのですよ…!(横山大観川端龍子川合玉堂で”松竹梅”のお題を描いた展覧会も開催している) ニコニコ動画で言うならば「もっと評価されるべき」のタグがつく感じです。 山種の初代館長は玉堂と仲が良く、今回出展されている作品もほとんどが山種所蔵の品。今回は現在の館長、山崎妙子館長が直々に細かいエピソードも添えて作品を説明して下さいました。

内覧会の様子

玉堂は日本独特の湿度や空気を可視化させるにはどうしたらよいかと写生を重ね、山水画(実際にある風景でなく、”こういう所ありそうだよね”と想像した風景)を描くにも、その場にいるような空気感を盛り込むことに成功。

[caption id="" align="aligncenter" width="300"]<二日月> 1907年 絹本・墨画淡彩 <二日月>
1907年 絹本・墨画淡彩[/caption]

この<二日月>という作品、中央上部の二日目の月の光色を出すべく、木の葉のてっぺんの一部にうすく金を引いています。

他にも<鵜飼>という作品の炎の部分に金を使うなど、玉堂は金を効果や象徴としてではなくひとつの色として使っていました。 これ、「金使ってますよー!!」という感じではなく、本当に色として使っているので、カメラにはうまく写りません。実物を見て初めて月の照り返しや火の表面のゆらめきを観ることができるのです…というわけで、ぜひ行ってみてね♡

また、日曜美術館(NHK)のディレクターが「玉堂の人としての黒い面を紹介したかったけど、参った!この人根っからのすごくいい人だ!」と言ったほど穏やかで優しい性格は作品にまんべんなく現れていました。

[caption id="" align="aligncenter" width="300"]1944年 絹本・彩色 <荒海>
1944年 絹本・彩色[/caption]

たとえば、この「荒海」という作品。 一見 文字通り「荒れている海」を表した絵ですが、実はこれ、戦争画です。

戦争画を描いてくれと依頼されても、人が殺し合う様子や傷つく様子は描きたくなかった。 だからこうして波が岩に当たり、千々に砕け散る様子を戦争における攻撃や散っていく命に例えたのでしょう。

その代わり玉堂は「そこに暮らす人」「そこで働く人」を大いに描きました。 玉堂展へいらしたら、是非絵をくまなく見てください。 ほとんどの作品に、その絵の中に暮らす人、働く人が描かれています。 雨に濡れながら峠を越える人、自転車に乗りながら颯爽と橋を渡る人、鵜飼や農夫、すました顔でかろやかに滑るスケート選手まで。

玉堂の人ああ、この感覚知っている。絵の中で人が暮らしている話。

そうだ、玉堂の絵は蟲師(という漫画があります)の「山抱く衣」だ。 ―――あるところに不思議な着物があった。衣には山村が描かれていて、時折そこから竈の煙が立ち上る。 まさに、玉堂の絵の中には暮らしが一つ閉じ込められている。

目で吸い込んで、筆から絹に流す(玉堂は主に絹本を用いています)。 やさしい画家に閉じ込められた世界は生き生きと、作家亡き今も絵の中で呼吸をしていました。 もちろん人だけではありません。第二展示室にはこの展覧会の為に修復した動物の絵がたくさんあります。 高橋留美子調の顔の猫が人気でした。

[caption id="" align="aligncenter" width="300"] <猫>
1951年 紙本・淡彩[/caption]

また、冒頭でも紹介したとおり様々な流派の技術を吸収していた玉堂。 琳派の影響が伺える<紅白梅>も、デザイン性が際立つ琳派の要素に加え、玉堂らしいまなざしが込められています。(枝にシジュウカラが!)とり
[caption id="attachment_222" align="alignleft" width="300"]<紅白梅> 1919年 紙本金地・彩色 <紅白梅>
1919年 紙本金地・彩色[/caption]                 面白い絵も描いています。この絵の左側に橋がかかっているのですが、そこに上の写真で紹介した自転車に乗る人が描かれています。なんだか山口晃っぽい!! [caption id="attachment_224" align="aligncenter" width="300"]<悠紀地方風俗・風 小下図> 1922年 紙本・彩色 <悠紀地方風俗・風 小下図>
1922年 紙本・彩色[/caption]   余談ですが、この<山雨一過>。 [caption id="attachment_226" align="alignright" width="270"]<イタリア風の風景> ヤン・ボト <イタリア風の風景>
ヤン・ボト[/caption] [caption id="attachment_225" align="alignleft" width="270"]<山雨一過> 1943年 絹本・彩色 <山雨一過>
1943年 絹本・彩色[/caption]                 隣の絵はマウリッツハイス美術館蔵 ヤン・ボトの「イタリア風の風景」。 丁度山を挟んで左右対称のような構図になっているように見えるのです。 ヤン・ボトは17世紀の画家なのでもちろん両者に交流は無かったわけですが、山雨一過を見た瞬間、なんだか不思議な気持ちに。   そうそう、山種恒例のイメージ和菓子、今回は5種類が絵の中から登場。 ブログ「弐代目 青い日記帳」のtakさんが、これらのお菓子たちが、様々なボツ案を経て(!)美しく完成する様子を説明して下さいました。 (※次回の速水御舟展には、満を持して「炎舞」のお菓子が登場します。 どんなビジュアルになるのか期待…!) 私は川下りをよく描いた玉堂にちなんで、浮かぶ小舟がかわいらしい「川の風」をいただきました。 (元ネタは“秋晴”) 全体的に涼しげなラインナップで、これからの季節には目にも舌にも幸せを運んでくれそうです。 お茶菓子を頂いてから元ネタになった作品を観るも良し、展示を観てから好きな作品のお菓子を頂くも良しです! 270 なお、玉堂展の模様は今度の日曜(30日)の日曜美術館で放送されます。 ゲストはあの松井冬子さん!!ぜひぜひご覧あれ~!! *川合玉堂展―日本のふるさと・日本のこころ―山種美術館) 8月4日(日)までやってます。前期は7/7まで、後期は7/9から。 10:00~17:00(最終入館16:30)まで。月曜がお休みです。(ただし7/15は開館、7/16が代わりにお休み)