雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

「驚きの明治工藝」展行ってきた

meijik @芸大美術館

台湾在住の漢方薬剤師・宋培安氏の明治工芸コレクションが130点も集うこの展覧会。「すごい!びっくり!かわいい!」のキャッチコピーのもとに展示されているのですが、すみません、そこに括弧つけて「センスの鬼!」も加えさせていただきたい。 あのね、めっちゃ守備範囲広いんです、宋さん。 「素敵~」と見とれてしまう茶器や、「言い値で買おう」と思わせる置物、さらには「怪しい地方の土産屋にありそうだな……」っていう香炉まで、とにかく小技が効いてて琴線に触れるものを集めるのがとても上手い。

そんな宋さん、コレクションはお父様の代から始められていたそうですが、明治工芸に着手されたのは宋さんの代になってから。それまでは中国古美術を中心に集めていたけれど、ある日明治時代の日本の工芸品と出会ってからその魅力にはまります。 以前三井記念美術館で行われた「超絶技巧」でも触れましたが、明治時代の工芸品は元刀工などハイレベル職人の手によるものが多いにもかかわらず、あまり国内では知られていないんですね。日本で注目される前に、「本国じゃあんまりウケなさそうだから海外に持ってくか……」とどんどん流出してしまったのが原因。今のところあまり研究されてるわけでもないので、レベルのわりにお手頃価格。これチャンスじゃね?と宋さんはもりもり買い求め、いつしか3000点規模の立派なコレクションに育ちました。

「こんなに素晴らしい工芸品が日本で知られていないなんて……。いつかこれらがきちんと評価され、本来の価値と名誉を取り戻せたらい良いなと願っていました。今回念願かなって里帰りをさせることができて本当に嬉しい」とは宋さんの弁。オイオイめっちゃ優しい良い人じゃないか宋さん……!というわけで、その想いを受け止めるべく、思い切り楽しんで鑑賞してまいりました。

 

会場はなんと写真撮影OKです。しかも御親切にWi-Fiが完備されてるんだよ~。そんでハッシュタグも用意されてるんだよ……! わいふぁい このモニタには「みんなでつくる工藝図鑑」というかたちで、ハッシュタグが付けられたツイートやインスタグラム投稿が表示されます。それぞれのSNSに驚き明治工藝展のアカウントがあるので、行く前に見てみると小ネタを得ることができるやも。(@   Instagram:odorokimeiji)

 

 

会場は「第一章 写実の追求 ―まるで本物のように―」「第二章 技巧を凝らす ―どこまでやるの、ここまでやるか―」の2つのテーマに分かれています。それとは別に部屋が左右に分かれており(構造上なんだけど)、エレベーター降りて右側と左側では毛色が違いました。結論から言うと、上品と面白いに分かれます。

まずは順路通り「写実の追求 」から見ていくことに。

[caption id="attachment_1594" align="aligncenter" width="384"]龍 ≪自在龍≫
宋義[/caption]

これ、ホントすごい存在感なんですけど、宋さんの御宅の窓辺に実際にこういう風に飾ってあるらしいんですよ。なんでも「どうやって展示しようか」という話になったとき、そんなら宋さんの家にある状態で展示しようということになって、お家からワイヤーごと借りてきたそうな。

龍に圧倒されてしまいがちですが、工芸の美は既に始まっており、龍の手前には今年の2月から4月にかけてサントリー美術館で展覧会も行われていた宮川香山の≪色絵金彩鴛鴦置物≫、そしてこれスマホケースだったら売れるんでは……?な易信の≪蒔絵螺鈿芝山硯屏≫など、華やかな作品も。宮川香山の高浮彫はゴージャスな色使いなんですけど、ところどころにミントグリーンっていうかチェレステカラーみたいなのが差してあって、派手に突っ走るのを絶妙なところで止めてる感じがとても良い。

[caption id="attachment_1595" align="aligncenter" width="248"]≪色絵金彩鴛鴦置物≫ 宮川香山 ≪色絵金彩鴛鴦置物≫
宮川香山[/caption]

[caption id="attachment_1596" align="aligncenter" width="288"]≪蒔絵螺鈿芝山硯屏≫ 易信 ≪蒔絵螺鈿芝山硯屏≫
易信[/caption]

 

「明治工芸」と言えば、その存在を切り離せない”自在”もたくさんありました。蛇や甲殻類はよく知られるところですが、このあたりのスチームパンク具合はなかなか作者の趣味が滲み出ていて大変よろしい。

[caption id="attachment_1597" align="aligncenter" width="384"]≪自在鯱≫ 無銘 ≪自在鯱≫
無銘[/caption]

自在ではないけれど、昆虫ものも明治工芸の十八番ですね。 蟲

そしてそして、今回の私的MVPだったのがこの宮本理三郎作品。

[caption id="attachment_1599" align="aligncenter" width="384"]≪柄杓蛙≫ 宮本理三郎 ≪柄杓蛙≫
宮本理三郎[/caption]

[caption id="attachment_1600" align="aligncenter" width="384"]≪春日 竹に蜥蜴≫ 宮本理三郎 ≪春日 竹に蜥蜴≫
宮本理三郎[/caption]

[caption id="attachment_1601" align="aligncenter" width="273"]≪葉上蛙≫ 宮本理三郎 ≪葉上蛙≫
宮本理三郎[/caption]

地味なんだけど、最高に趣味が良いのだ!この渋いチョイスと色がたまらん。自宅が立派だったらぜひともこの人の作品を買いたい、そう思ってしまうほどストライクでした。蜥蜴が乗っかってる竹、あれ、竹じゃなくて木で竹を作ってる。ここで「そんなら最初から竹使えばいいじゃん」ってならないのが明治工芸。木で作ると決めたら木で作るんや……。

で、他にも柴田是真とか明治工芸と言えばの明珍宋義とかもあるんですけど、冒頭で述べましたように、まあこの部屋はどちらかというと”素敵~”とか”お上品~”なものが多い。で、反対側の部屋の方はどちらかというと”面白いもの”が多かった。もちろんビロード友禅とか真面目なのもあったんだけど、こう、「深く考えたら負け」的な面白さが目立ったよね。考えるより感じろ的な。

[caption id="attachment_1602" align="aligncenter" width="288"]上≪三猿根付≫ 小林盛良 下≪閻魔出遊根付≫ 四代舟月 上≪三猿根付≫
小林盛良
下≪閻魔出遊根付≫
四代舟月[/caption]

この猿とか閻魔大王と獄卒コンビとか、ほんっと小さくて、私の親指の爪くらい。 もうここまで来ると作ってる途中で「俺何やってんだろ」っていう気持ちと「ここまで来たら限界を超える!!」みたいな気持ちがせめぎ合ったんじゃないかとすら思える。買う方も「このモチーフをここまで小さくする意味ってあるのだろうか……でもなんかすごいのはわかる!!」みたいな感覚だったんじゃなかろうか。明治工芸って、”こんなに精巧に……素晴らしい!”っていうのと、”何故これを?とか難しく考えるな!テンションを上げろ!”みたいな勢いあるやつとの2パターンある気がして、どっちが好きとか好みはあるかもしれないけど、どっちもとにかく凄いっていう、この「すごい」という単純なキーワードこそが明治工芸が人を惹きつける要素になっていると思うのです。だからある意味わかりやすいのよね。「すごい」というシンプルな感動を焚き付けるわけですから。

で、まあ、この部屋の中でもひときわ異彩を放っていたのが、セミヌードお婆ちゃんの香炉。なんと口から煙が出ます……。この表情も相まってめちゃくちゃ渋い。めっちゃハードボイルドだった。こういうのもコレクションしちゃう宋さんの攻めの姿勢を忘れないセンスが好きだ。

[caption id="attachment_1603" align="aligncenter" width="258"]≪山姥香炉≫ 恵順 ≪山姥香炉≫
恵順[/caption]

あとこの狸。下に鏡が置かれてることでお察しなんですけど、見えない部分もしっかり作られておりまして、もふもふの尻尾の毛が寝ていたり、肉球がつぶれていたりと、とにかく芸が細かい。

[caption id="attachment_1604" align="aligncenter" width="244"]≪狸置物≫ 大島如雲 ≪狸置物≫
大島如雲[/caption]

tanuki

 

近年注目を浴びてる明治工芸だけど、このままで終わらず、ぜひもっと広く研究される分野になっていったらいいなと思います(私が知らないだけで既にもりもり研究されてるかもしれないけど)。各作家の人生ドラマも熱いし、変な人とかもいるだろうし、掘り下げたら面白いんじゃないかと思う。つーか、自然とこれを作るってどういう人なんだろうと思ってしまうのです。 ところで宋さん、こういうの3000点も持ってるってすごいよね。残りの2900点弱がちょっと気になったりします。

 

驚きの明治工藝

会場:東京藝術大学大学美術館 会期:2016/9/7(水)~10/30(日) 時間:午前10時~午後5時 ※入館は午後4時30分まで