雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

2014年に観に行った展覧会ベスト10

あけましておめでとうございます。

2014年はのっけから忙しく、その他辛いことの多い年でございました。その影響もあって展覧会に行く回数が減ってしまったり、行ってもブログに残せなかったりが多かったのですが、その中でも良い展覧会との出会いはもちろんあるわけで……10位から1位まで順位をつけてみようかと思ったのですが、順位の付け方が難しいものもあったので、観たものの中で特に印象に残ったものを50音順に10個並べてみようと思います。

1.「ありきたりの?」展 レアンドロ・エルリッヒ (金沢21世紀美術館

[caption id="attachment_1075" align="aligncenter" width="300"]レアンドロ・エルリッヒ 「ありきたりの?」 レアンドロ・エルリッヒ
「ありきたりの?」[/caption]

夏の、それも台風が直撃した金沢で観たエルリッヒ。幸いほとんど傘をさすこともなく快適な時間を過ごすことができましたが、渦巻く風の中、21世紀美術館へ行く前に、「鈴木大拙館」で良い時間を過ごしたことも、この展覧会をすっきりとした気持で見ることができた要因である気がします。 「ありきたりの?」展 詳細

 

2.「ヴァロットン」展 (三菱一号館美術館

[caption id="attachment_1077" align="aligncenter" width="300"]「ヴァロットン」展 「ヴァロットン」展[/caption]

年明けに同館で行われた名品展にて、ヴァロットンの版画が何点か出ており、その初期手塚治虫的(ロストワールドあたり)な作風と陰影のつけ方に魅了され、さて展覧会はどんなふうかしら?と楽しみに行ったところ、この人は可愛い風刺絵を描く人じゃなくて「女なんかに騙されないぞ!……ああでも…いやいや、うーむ……」という苦悩にまみれた絵も描くんだね?!っていう。 この「貞節なシュザンヌ」は、旧約聖書の「スザンヌと長老たち」がモチーフになっている絵なのですが、どう見てもこのオッサン2名はシュザンヌにとっては超楽勝にカモれる相手でしかない。シュザンヌのこの妖艶な笑みを見ればわかる。うん、きっとヴァロットンはこういう峰不二子みたいな女性に憧れていたのだろうね……。 しかしその一方で、不思議な明暗の風景画も描いたりします。

[caption id="attachment_1078" align="aligncenter" width="300"]「ヴァロットン」展 「ヴァロットン」展[/caption]

この、不安定ギリギリのバランスが心地よい展覧会でした。もう一度観たいなあ……。 3.「王国」展 奈良原一高 (国立近代美術館)

[caption id="attachment_1074" align="aligncenter" width="280"]奈良原一高 「王国」 奈良原一高
「王国」[/caption]

先日ブログにも書きましたが、「王国」展、すごかったです。自分が表現したくても難しくてできないことを、がっちりやっている人の作品を観るとこういう気持ちになるんだな・・・・・・というのを味わいました。(いや、奈良原一高と比べるなよって話ではあるけれども!) まだ3月までやっているので、高松展に行く際に再訪します。 「王国」展 詳細

 

4.「kawaii日本美術」展 (山種美術館

[caption id="attachment_1076" align="aligncenter" width="259"]「Kawaii日本美術」展Kawaii日本美術」展[/caption]

こちらは前期・後記・山口晃氏のトークショーと参加しましたが、山種らしいラインナップを全面推ししてきた、ある意味パワフルな展覧会でした。巷で使われる「かわいい」の広義を把握し、且つ品の良さはしっかり押さえる目の付けどころはさすが。イチオシは何と言っても柴田是真でございますとも! 「Kawaii日本美術」展 詳細

 

5.「スピリチュアルワールド」展 (東京都写真美術館

[caption id="attachment_1081" align="aligncenter" width="300"]「スピリチュアル・ワールド」展 「スピリチュアル・ワールド」展[/caption]

2014年、写美には前年よりも足を運びました。高谷史郎「あかるい部屋」展、「101年目のロバートキャパ」展、佐藤時啓「光ー時」展、「世界報道写真」展、フィオナ・タン「まなざしの詩学」展、そして「スピリチュアル・ワールド」展。 正直、タイトルを聞いたときはあまり期待していなかったのですが、これがすこぶる良い展示。何が素晴らしいって、構成が素晴らしかった。 日本を中心とした精神的な土着文化とアニミズムをテーマに編集されており、鈴木理策の緑のトンネルで始まり石元泰博で払われ清められ、石川直樹で霊峰の頂点に送られて土田ヒロミで愛らしい神々とほほ笑み合う。内藤正敏にパワフルなイタコをバンバン送りつけられてくらくらしていると、奈良原一高修道院が静かに扉を開けてくれ、福音を噛みしめながら修道院を出ると横尾忠則のキリストがまたカウンターを食らわせてくるという……。見えない力に翻弄されて、ああさすが八百万の神が住まう国ですねとよろめきながら出口へ向かうと、手前で三好耕三が湯船を用意してくれているわけです。 もうね、この「湯船」の効果が半端なく、この流れでこの写真を持ってきたキュレーターは天才だなと思いました。温泉は、神様です。

 

6.「せいのもとで lifescape」展 (資生堂ギャラリー

[caption id="attachment_1083" align="aligncenter" width="275"]「せいのもとで lifescape」 「せいのもとで lifescape」[/caption]

「大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか。すべてのものはここから生まれる」 「天の徳はなんと偉大なものであろうか。すべてのものはここから始まる」

須田悦弘さんがキュレーションを担当されたこの展覧会は、資生堂の社名の由来でもある『易経』の一節「至哉坤元 万物資生」と、その対句「大哉乾元 万物資始」をテーマに構成されています。 天と地のあらゆる循環から新しい命が生まれてくる。その、透きとおった新しい力、「資生」を須田さんが「生の元手」と解釈し、名付けたのが「せいのもとで lifescape」。 ”目”による「たよりない現実、この世界の在りか」とどちらをベスト10に入れようか迷いましたが、植物と糸の展示があまりにも奇麗で、日本が持つ美しさの根っこの部分というのは、こういったシンプルな生命の循環を敬うことなんじゃないかなと思い、こちらをベスト10に入れさせていただきました。

 

7.「超絶技巧!明治工芸の粋―村田コレクション一挙公開―」展 (三井記念美術館

[caption id="attachment_1087" align="aligncenter" width="225"]「超絶技巧!明治工芸の粋―村田コレクション一挙公開―」展 「超絶技巧!明治工芸の粋―村田コレクション一挙公開―」展[/caption]

こちらは幸運にも、この展覧会の展示物所蔵館の「清水三年坂美術館」館長・村田理如氏と、展覧会を監修された山下裕二先生の解説を聞きながら作品を鑑賞する、特別観賞会に参加することができました。 「ものづくり」という言葉が容易に使われる現代であるからこそ、薄っぺらい言葉だけの「ものづくり」なんかではなく、真に迫った「ものづくり」について文化が見直されることを願った展覧会でした。 「超絶技巧」展 詳細

 

8.「ポリフィーロの夢」展 ニコラ・ビュフ (原美術館

[caption id="attachment_1085" align="aligncenter" width="300"]ニコラ・ビュフ 「ポリフィーロの夢」 ニコラ・ビュフ
「ポリフィーロの夢」[/caption]

ニコラ・ビュフ……RPGと特撮が大好きなフランス人オタクの鑑のような方。素晴らしい。 現代美術はわかりにくいと思われがちですが、これに限ってはそういうことは全くありません。彼の中の世界がしっかり翻訳されているため、頭を捻らず素直に楽しむことができます。しっかり世界観やメッセージが伝わるからその先の深部まで読み取ることもできるし、ユーモア満載だからとっても面白い。 ポリフィーロという少年の冒険譚を通じて、私たちはニコラ・ビュフの内なる世界を探検するのです。(なんとパワードスーツを身につけてドラゴンと戦うこともできます!) ファイナル・ファンタジーゼルダの冒険で育った世代としては、同じ並行世界で旅を続けていた仲間に出会えたような喜びを感じることもでき、最後の部屋ではすっかりビュフの世界に入りこんで脳内にはエンドタイトルのファンファーレも鳴り響いた、そんな体験ができる展覧会でした。

 

9.「星を賣る店」展 クラフト・エヴィング商會 (世田谷文学館

[caption id="attachment_1088" align="aligncenter" width="214"]クラフト・エヴィング商會 「星を賣る店」 クラフト・エヴィング商會
「星を賣る店」[/caption]

じつは、わたくしこういうものです』という本を読んでから虜になったクラフト・エヴィング商會クラフト・エヴィング商會とは、吉田篤弘さんと吉田浩美さんによる、作家および装丁家のユニットです。前述の本を読んでから、私の”いつかなりたい職業”は給水塔守か、冬眠図書館員になりました。 実際にはないけれど、あたかも実在するかのような職業、店舗、事象を蒐集し、ときに仰々しく、ときに無造作に展示された作品たち。その、「あたかも実在するかのような」演出がとても素晴らしい。 彼らの世界観を言葉にすることは難しく、強いて言うならば、それはけぶるような闇の中に建つ小さな本屋だったり、かすかにオキシドールの匂いのする古い瓶だったり。そういった、静かな記憶の中にある小さな欠片をひょいと目の前に出してくれる、それがクラフト・エヴィングの魅力のひとつであるように思えます。

 

10.「ザ・ビューティフル」展&「ラファエル前派」展 (三菱一号館美術館/森アーツセンターギャラリー)

[caption id="attachment_1089" align="aligncenter" width="289"]「ザ・ビューティフル」展 「ザ・ビューティフル」展[/caption]

[caption id="attachment_1090" align="aligncenter" width="300"]「ラファエル前派」展 「ラファエル前派」展[/caption]

この2つの展覧会には共同企画(?)キャンペーンがあり、とってもお得な前売り券が発売されていたので併せて行ったのですが、同じ時代の同じ作家たちを集めつつも、それぞれ違った角度から作品を観るという趣向を凝らした展覧会となっていました。 「ザ・ビューティフル」展は、その名の通り唯美主義”ただ美しく”を、ひたすら味わうことができ、とくに最後の部屋に鎮座しているムーアの≪真夏≫は花の香りや風まで五感が拾ってしまうのではないかというほどくらくらする美しさで、つい3回も観に行ってしまったという……。 対する「ラファエル前派」展は、ミレイの≪オフィーリア≫が来るというので話題になっていましたが、それよりも同じくミレイが描いた≪両親の家のキリスト≫の、キリストの顔がね……いろんな意味で最高でした。一度観たら忘れられない。またいつか再会したいなあ。 詳細はブログに描きましたが、ラファエル前派の人たちは人間関係もドロドロしていて下手な昼ドラよりも何倍も面白いですよ。 「ザ・ビューティフル」展 詳細 「ラファエル前派」展 詳細

 

ざっと振り返ってみましたが、他にも「東山御物」とか「中村芳中」とか「ジョセフ・クーデルカ」とか「戦後日本住宅伝説」とか「ウォーホル」とか「バルテュス」とか「南部鉄器」とか「イメージの力」とか良かったんですけど、その中でも忘れてはいけないのが「The World of TIGER & BUNNY」展ですね!!!

[caption id="attachment_1092" align="aligncenter" width="228"]「Tiger & Bunny」展 「The World of TIGER & BUNNY」展[/caption]

2014年は劇場版 The Risingも上映され、バレンタインにはなんとワイルドタイガーと握手をして更にはタイガーさん(のスポンサー様)からチョコレートを貰えたりと眩いばかりの1年でしたが、展覧会という形でタイバニの世界を再考できたのも、とても貴重な機会だったのではないかと思います。 「TIGER & BUNNY」展 詳細

 

2015年はいきなり岡崎京子展やら山口晃展があり、琳派100周年や若冲と蕪村、マグリットなどなど楽しみな展覧会が目白押しで、なんとしても取りこぼさないようにしないといけませんね。なんとしてでも……行けるといいなァ……

今年もよろしくお願いします。