アントニオ・ロペス展行ってきた
もう終わっちゃってる展示について書くのもなんですが、とても良かったので書きますね。 あまりに良すぎて、twitterでは「すげー」とか「やべー」しか言えなかったので、冷静になった今……。
アントニオ・ロペスに興味を持ったのは、某ヒーローアニメで同姓同名の牛角の名前を背負ったヒーローがいたことからなのですが(ジョジョにもいますね)、チラシの《マリアの肖像》を見て一気にファンになりました。これは観に行くしかない。
てっきり写実系だと思っていたけれど、既に観に行った人々の反応は「写実ではない」(きっぱり)。 あらら? これは実際に観るしかないわね~と展覧会へ。
行ったら本当に写実だけど写実じゃなかった!! ということが分かりました。 その「写実だけど写実じゃない」にはいろんな意味がありまして、まずこの絵。
これ、肉やりんごの部分がコラージュなのです。広告にのってる「牛肉198円!」みたいな写真がコラされてます。 おお……写実ってこう来たか~とか思っていたんですが、もうひとつ気になるのが奥さん(右)の頭がずれてるところ。
なぜずれているかについては説明は無かったのですが、他にも微妙に人物がずれたまま描かれている絵があるのです。
で、展示を追って観ていくと映画「マルメロの陽光(1992)」(ビクトル・エリセ監督作品)で使われた絵のコーナーになるのですが、マルメロの陽光でも描かれているとおり、題材になっているマルメロの絵は最終的には仕上がらないのですよ。
というのも、対象を観察して観察して日々描き加えていく手法をとるアントニオにとって、時間とともに姿を変える植物は刻々と変化しているわけで、描いた先から変っていくから描き終わらないのです。
じゃあ、さっきの頭がずれていた絵。あれはもしかしたら、人が動いた軌道を描いたんじゃないだろうか?
写実=「実際にあるものそっくりに描き写す」ことなのだとしたら、時間がそこに加わることこそ写実なんじゃないだろうか?
だとしたら、この人の作品全て完全な写実なんだ。
そう思った瞬間、鳥肌がたって一人でエア叫びをあげました。
アントニオ・ロペス、やばい!!
で、ポスターなどで観た方も多いと思いますが、《グラン・ビア》。
この絵、7年間かけて描かれています。 季節によって日の差し方とかかわるじゃないですか。 影も変るし、空気の色も変る。アントニオは「1年のうち夏のこの時間だけ!」と決めて、早朝の30分間夏の光だけを7年の歳月をかけて描き込んだのだそう。またもや鳥肌が立ちました。家だったら床にごろんごろんしてた。
さらにさらに東京での展覧会が終わった今、今更そんなこと言うなと言われそうですが、長崎に巡回するので長崎に行く方はぜひ!という気持ちで書きますけど、グラン・ビアに続くマドリードの景色シリーズが本っ当にやばい。これは観ないと損すると思う。
例えるならば、「空がきれいだから屋上登ってそこでのんびり眺めたいな」と思って15階建てくらいのマンションを途中から階段つかって屋上まで登って「やっとついたー」って言って屋上のドア開けた瞬間の「わあ!」の気分です。
景色がそのまま眼前に広がるのです。 光とか、風とか、気温とか、全部目からの情報でわかる。 そのときの「わあ!」っていう気持ちとか、会場(屋内)にいるのにわかるの。 絵がうまいとかそういうレベルじゃない。どういうことだってばよ…
近寄ると絵なんですけど、3メートル離れた瞬間絵という枠から別のものに変ります。 もうこれはどんなに説明しても実物観ないとわからないと思います。長崎行ってください……。本人来るっていうし……。
他にも立体マウスパッド(失礼)のような《眠る女》とか、総鉛筆でここまで!!という《バスルーム》とか、次から次へとこれでもかと出てくるんですけど、出口手前にあった木彫《男と女》。
リアルすぎて、いきなり歩きだして夏木豊がどっきりのプラカード持ってても不思議じゃないくらいすごかった。 女性の方、うちの母親と同じ腕だったもんなあ。。。 これも実物を観ないと分からない作品ですので、長崎へぜひ行ってください。
できればこの絵とともに展示室に住みたいなと思うほど、何時間観ていても飽きない絵でした。 で、マドリードシリーズも好きなんだけど、若い時から26年間書き続けた「フランシスコ・カレテロ」(アントニオの叔父の友人)の絵。
この絵、すごくすごく良い絵ですよ。 描こうと思ったきっかけはフランシスコの頭の形がおもろいから、という理由なんだけど……。
これは長崎県美術館に所蔵されているので、日本にいても観ることができます。
が、どうせ長崎行くのだったら他のも観てほしいので、展覧会に行ってみてね♡(8月25日まで)
普段自分が写実だと思っていた概念は、「写実」のほんの一部でしかなかったことが良く分かりました。 ということは、括られているあらゆるジャンルはまだまだ既成概念の外への伸びしろがあるということかもしれない。 そんなふうに、目の前がひらけるような展覧会でした。