雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

浮世絵Floating World 展行ってきた(第一期)

三菱一号館美術館

先月末にブロガー内覧会にお邪魔しました。別媒体でその時の模様を既に紹介しましたが、この展覧会は全三部構成となっているので、繋がりを持たせたく、こちらにも記載します。 ※会場内の写真は、美術館から許可を頂いて撮影したものです。

[caption id="attachment_268" align="alignleft" width="270"]<青楼十二時 続丑の刻> 喜多川歌麿 <青楼十二時 続丑の刻>
喜多川歌麿[/caption]

 

“浮世絵”とはそもそも「生きるのがつらい“憂き世”」なら、「束の間だけでも浮き浮きしたい!」というところからついた名前だそうです。 で、海外の人に絵のジャンルを説明するのに浮く=Floatだから「浮世=Floating World」ってことでそう呼んでいるそうですが、浮かれて暮らしたいっていうより、なんとなくふわふわ夢心地な感じがする浮世絵(美人画あたりはマジでいい夢から覚めたあとの気持ちに似てる)。 そんな浮世絵を個人で4000~6000点(2000点差はセット等数え方の違い)も持っている斉藤文夫さんという方がいらしてですな…。なんと今回の展覧会は計3期に分かれているのですが、ぜーんぶ斉藤コレクションです。(左の写真は歌麿が描いた遊女の1日。みんな気になるオフの彼女たちが満載。指先まで可愛い。(12枚コンプ)

※内覧会はまず野口学芸員から展覧会の概要について、そしてミュージアムショップ“Store 1894”を担当していらっしゃる株式会社Eastの開さんが今回のグッズについて語られ、その後観賞へ。青い日記帳のTakさんが進行とツッコミを行われ、3分に1度は笑いが起きるトークはあっという間の30分でした。 ※第1期は残念ながらもう終わってしまったのですが、2期、3期にも共通するお話がでましたので、それをご紹介します。

 

★なぜ「三菱一号館美術館で浮世絵」なのか?

この疑問は多くの方が持っていると思います。私もちょっと意外でした。 というのも、三菱一号館印象派(ルノワールとか)やラファエル前派(ロセッティとか)をはじめ19世紀の西洋画のイメージが強かったからです。 しかし、一号館としては浮世絵展を行うことは奇をてらったつもりはなく、ごく自然な流れ。 なぜなら19世紀の西洋の画家たちは多かれ少なかれ日本から来た浮世絵を目にしており、なかには影響を強く受けた画家もいたわけで、だったら19世紀西洋画に強い一号館しかできない見せ方をしてみようじゃないか!ということになったそうです。

実際この美術館だからできる浮世絵とのあれこれって本当に多くて、例えば行ったことがある人なら知っていると思うのですが、美術館の中に暖炉があるのですよ(19世紀に建てられたオフィスを復元している:コンドル建築)。 当時日本ではチラシや包装紙代わりだった浮世絵ですが、西洋ではきちんと「絵画」として扱われ額に入れて飾られていたそうなのです。

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←それなら今回はきちんと額に入れて暖炉のある部屋に飾ることで、当時のヨーロッパ人の追体験をしてみよう!更には浮世絵の影響を受けたであろうロートレックやボナールの絵も一緒の部屋で・というかもうこの際だから隣に飾っとく?となったわけです。

ロートレックの描いた娼婦と同じ空間に喜多川歌麿の遊女の絵があったりして「東西小悪魔対決!」的なこともね、さらりとやれてしまうわけですよ。 また、このような展示の仕方になっている部屋もありました。

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おおおかっこいい!!と興奮。

「江戸時代に生まれたものの横を現代の人々(鑑賞者)が通ることで、街の中をお互いがすれ違っているような空間を作りたかった」という意図のもとレイアウトされた絵の中の人物たち。

江戸と平成の時間が交差していました。

 

 ★で、春画はないの?

[caption id="attachment_257" align="aligncenter" width="300"]<女湯> 鳥居清長   <女湯>
鳥居清長[/caption]

 

―――というたけさんのツッコミが。というか、一号館館長の心の叫びが。 はい、今回は春画はありません。 というのも斉藤さんが「浮世絵コレクターに俺はなる!」と宣言したところ、奥さまから「うちには年頃の息子がいるから教育上春画はやめてね。春画無しならいいよ」と条件付きのOKが出たそうで、その時の約束をしっかり守って、春画はありません!!(ドン!) でも、女性の入浴シーンが描かれたやつはありました。これは庶民の風俗扱いになるからセーフなのかな(笑 奥の棚(?)から下半身だけ見えている人とか、フェチの視点だよなあ。 斉藤家の法の抜け穴だったのか、それとも春画を飾れなかった一号館の執念の展示なのか…

 

  ★レアものがたくさんあります!中には世界でひとつだけのものも。

[caption id="attachment_263" align="aligncenter" width="178"]<東扇 初代中村富十郎の娘道成寺> 勝川春章 初代中村富十郎娘道成寺
勝川春章[/caption]

前述のとおり、西洋ではブラックモン(フランス画家)が日本から送られてきた陶器の包装紙に使われていた浮世絵を見て感動して、友人のマネやドガに見せたことから浮世絵の評価は高かったんだけど、日本では相変わらずチラシ扱い。。。とほほ。

そんなわけで、大切に保管しておく人は少なかったのです。バラで残ってはいるけどコンプされていないものとか、「絵を切り抜くと扇になるよ!」みたいなギミックものは当然切り抜いちゃうから元の状態で残っていないものが多いのですが、そこは斉藤さん、コンプしてます!中には繋げることでパノラマ写真みたいになる作品も。

あと、浮世絵って北斎や広重、国芳が有名なのでカラフルな印象が強いと思いますが、最初の方は「紅摺絵(べにずりえ)」といって赤三色くらいの版画だったようです。(展示あり) 鈴木春信が一線で活躍するあたりから多色摺(東錦絵)が主流になったのですが、その、東錦絵に入るちょっと前の春信の作品「風流やつし七小町草紙あらひ」、やつし七小町っていうのは小野小町の7つのエピソードから引用って意味なんですが、それがコンプリートされてるものも展示されています。これは世界でも斉藤コレクションだけ!しかもちゃんと本の形になってる! また、当時の役者絵は首絵と言ってバストアップのポートレイトだったり演じている姿(衣装もメイクもばっちり)で描かれるものが多かったのですが、初代 歌川豊国は役者の素顔を描きました。しかもオフショットに添えられている歌は役者の手描き。こういうの待ってた、というファンの気持ちを良く掴んでいるシリーズがあるあたり、この時代になって芸能と庶民との関係が顕著に変わってきているんだな、という気がしました。

★ショップが本気出してる。

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特別展のショップを見て、「なんだ、ただのお菓子の袋に有名な絵を貼ってるだけじゃん」と思った経験を持つのは、わたくしだけではないはずよ。

今回「美味しくないお菓子の包み紙を浮世絵にして売るだけ的なことはしたくない!」という精神の下集められた品々は、“今もなお江戸で商いをしている老舗に頼んだもの”ばかり。しかも江戸だけに収まらず、品ぞろえは東海道五十三次物産店さながら。ひねりの効いたものもあるので、プレゼントにも良さそうです。 ショップの内装もモネ邸のダイニングにちなんで黄色い壁に。飾ってある浮世絵も、実際にモネ邸にあるものと同じものを用意するという徹底ぶり。版画はミヤケマイさんの作品も手掛ける技術集団アダチ版画研究所。てぬぐいの種類が多かったのがよかったな。

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以上が内覧会で伺った見どころなのですが、一号館の方から「もし更に深く浮世絵を観ようと思ったら…」というアドバイスをいただきましたので、ご紹介。 ズバリ、「元ネタを知っていると倍楽しめる!!」ということ。 キリスト教ギリシャ神話も、ある程度内容を知っていると絵の意味が分かって面白いですよね。銀魂なんてその典型です。 同じように、浮世絵も風景や庶民、美女、役者を描いたものばかりでなく、そこに「見立て」や「やつし」が多用されているのです。 見立てとは、「○○に見立てる」の見立て。この場合の「やつし」は見立てとほぼ同義ですが、パロディだったり引用だったり。前述の七小町もそうですが、元の話を知っていると作家が散りばめたユーモアを拾うことができるできるという・・・ 知識ゼロで観ても楽しいけれど、1stガンダムを見た人がガンダムUCを見て物語の繋がりに唸ることができるように、潜れば潜るほど楽しみ方は増えるんだなあと知識欲が刺激されました。

長くなってしまいましたが、3期まであるということは各期間が短いわけで、美人画盛りだくさんの“浮世絵の黄金期”1期は残念ながら7/15で終了。誰もが一度は目にしているであろう有名どころが揃う2期“北斎・広重の登場”は7/17~8/11。歴史が動き始める3期“移りゆく江戸から東京”は8/13~9/8までなので、気になる方はお見逃しなく。

浮世絵Floating World -珠玉の斉藤コレクション-

会場:三菱一号館美術館 第2期:7月17日(水)~8月11日(日) 北斎・広重の登場。ツーリズムの発展 第3期:8月13日(火)~9月8日(日) うつりゆく江戸から東京。ジャーナリスティック、ノスタルジックな視線 木・金・土 10:00~20:00 火・水・日・祝 10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで http://mimt.jp/ukiyoe/