雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

2020年に観た展覧会を振り返る

あけましておめでとうございます。

昨年内に振り返るつもりでいたけれど、なんとなくうまくまとめられず、年が明けてしまいました。

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《松崎天神縁起絵巻》(模本)前田氏実 模 東京国立博物館蔵 これくらい元気に生きたい

 多くの方が言っているように、2020年の展覧会事情は本当にいろいろありましたね。自分としては一昨年以上に開催側に関わる機会に恵まれたこともあり、それ故にひと言で言えば「悔しい」年だったなあ、という。

長い間準備をして、作るものも作って、さあお披露目! というタイミングで聞こえてきた自粛や休館の足音。ぜひ来てくださいとも言いにくい、なんとも歯切れの悪い言葉で招待券を渡さねばならなかった。みんなに観てほしい展示なのに、素敵なデザインの招待券なのに、なんで胸を張って堂々と渡せないんだ。

きっと、多くの展覧会関係者が同じ気持ちを味わったと思う。

中には招待券を渡せないどころか、お蔵入りになってしまったものもあった。

苦々しいことにコロナ禍はまだ終わっていない。それどころか再び緊急事態宣言が出るような状況になってしまって、うーん、あんな思いはもうしたくないんだよなあ……。

そんなわけで、2020年は例年の半分以下しか展示を観ていないどころか、何も観に行けなかった月もある。楽しみにしていた展覧会のいくつかは、延期もしくは開催中止となった。つらい。

とはいえ満足いく展覧会はなかったのかと聞かれれば、全くそんなことはなく、「浴びたぜ!」とつやつやしながら出口を後にしたものばかり。そう思えたのは、ひとえにこの状況下で知恵を振り絞って展覧会を作り上げてくださった人々の力によるものです。ありがたや。

今年はイレギュラーすぎてベスト10に絞ることができなかったので、自分のTwitterと撮影した写真から振り返り。例によってブログはほとんど書いていなかったので、2021年こそちゃんと書こうな(自戒)。

 

1月

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▲ミナ ペルホネン「つづく」 会場風景


2020年の鑑賞は、自分としては珍しく現代美術で幕を開けた。
こうしてみると1月は結構鑑賞しているなあ。しかし1月ともなると2019年と記憶がごっちゃになっていたりするので、今後もこういうふうに月ごとに振り返ろうかしらね。
この頃は「なんだか中国で蝙蝠由来の新種のウイルスが蔓延しているらしいね」と友人との会食で話題となったりしていたが、たぶん多くの人が「もう2020年だし、そこまで大きな被害にはならんだろう」と踏んでいたような気がする。かくいう私も現代の文明をもってすれば、なんて思っておりました。甘かったな。

1月は写真家の奈良原一高さんが亡くなって、あちこちで追悼展が開催されていたように記憶している。いつ見ても《王国》は素晴らしいです。

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奈良原一高 《王国》(沈黙の園より) 写真は以前、国立近代美術館で撮影したもの

2019年(令和元年)に天皇が即位されたこともあって、2019年末から高御座と御帳台が一般公開された。

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▲高御座と御帳台(東京国立博物館

ゴッホ展」は会期末だったこともあり、今じゃ考えられないくらいの長蛇の列。並んだり混んだりする展覧会は好きじゃないけれど、1枚の絵に大勢が群がるような展覧会が次に開催されるのはいつになるだろう。

ハマスホイをまとめて観ることができたのもありがたかった。ただ、こちらは会期終了前に閉幕となってしまった。

「しきのいろ」は、志村ふくみさん・洋子さん親子と、須田悦弘さんの展覧会。ザ・ギンザ スペースは本当に良い展覧会を企画されることが多く、いまトピでも紹介したいと思い記事を書いた。

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「ブタペスト展」ではシニェイ・メルシェ・パールという画家を知ることができた。明らかにこの人一人ぶっ飛んでた記憶。

そして1月15日、念願のシュテルンビルトに引っ越したのであった。しかもゴールドステージ。以降、1か月ほど滞在することになる。

 

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▲シュテルンビルトで発行している市内広報誌

 

2月

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▲津田青楓《うづら衣》より 

2月もまあまあ行けている。大津萌乃さんの個展にも行くことができたし、東西問わず図案が好きな自分にとって「津田青楓展」は眼福だった。夏目漱石との関係性もエモい。

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「画家が見たこども展」、ナビ派好きとしては途中で休館となってしまったのが残念だったが、その後会期を延長して再開されたので再訪することができた。

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▲「画家が見たこども展」のショップにあった500円のガチャ。ヴァロットンのサコッシュで、使い勝手神のグッズ。

そう、この2月から美術館・博物館は苦境に立たされることになる(ミュージアムに限らず他の施設もだけれど)。
中旬あたりで「どうやら新型コロナウイルス対岸の火事というわけではない」となりはじめ、下旬から国立の文化施設が活動休止の対象となった。次いで公立、私立も。
会話のほぼ無い、(一部を除き)さほど混むわけでもない展覧会会場が対象になる意味がわからない……と思いつつ、日を追うごとに中止という文字が増えていくサイトを見つめていた。
開館しているところも「どうやって来館者を迎えるか」「どう対策すれば安全が確保されるか」「そもそも開催を継続できるかどうか」という、通常の運営では議題に上がらない困難にぶち当たることになり、暗中模索な状況に突入する。

 

3月

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▲「ふつうの系譜」

3月はこの通り……。府中の「春の江戸絵画祭り」は、毎年のほほんと浮かれた気持ちで行っていたので、こんなふうにぴりぴりした空気の中で噛みしめるように観る日が来ようとは思わなんだ。そうそう、今年は都内で桜を見にふらつくことも難しくなりそうだと、六義園の桜だけ見納めのつもりで行ったのでした。

 

4月

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▲幻想の銀河 山本 基×土屋仁応(ザ・ギンザ スペース)
  • 幻想の銀河 山本 基×土屋仁応(ザ・ギンザ スペース)

 展覧会の記事を書いていた関係で運よく設営時に見せてもらえて、これはすごい世界だと震えたというのに、そのあとすぐに緊急事態宣言が発行されてしまい暫くお蔵入りになってしまった「幻想の銀河」。4月に観ることができたのはこれだけ。

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残念ながらクローズしてしまった展覧会やミュージアムは、それでも何かやらねばとオンラインで楽しめる企画を次々に打ち出してくれた。ニコ生も良い番組を流してくれていましたね。ありがとうございます。

後半、やりどころのない気持ちとエモさを求めてタイBLドラマにはまる。

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▲タイのBLドラマ「2gether」

 

5月

  • 引き続きタイBLにドはまりする。友達とラインで会話をしながら同じタイミングで鑑賞し、ゴールデンウイークは全く出かけないものの充実した時間を過ごすことができました。そしてテイクアウトのタイ料理率が爆上がりする。

    ……というわけで、ひとつも展覧会に行かない月に。

6月

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▲「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」(東京都現代美術館)会場風景

自粛開け第1弾? はオラファー・エリアソン。奇しくも2020年の展覧会初めと同じ東京都現代美術館。設営は終わっていたもののコロナ禍で開幕ができなかった同展だが、なんとか再開。サステナビリティをテーマに時代を象徴するような展覧会だったけれど、オラファーが2020年をどうアウトプットするか、今後が気になる。

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▲「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」(江戸東京博物館

「奇才」は絵金の絵を生で観ることができたのも嬉しかったけれど、それ以上になかなか同じ展覧会で相見えることのない絵師たちが並んでいる空間を楽しむことができた。
そしてなんといっても田中訥言の《日月図屏風》、これはすごかったなあ。目録を見ると通期で観るべき展覧会であったことがわかり、前半がまるまる休館となってしまっていたのが残念でならない。

すみだの「大催事記展」は、これぞ江戸創作ものを書いている人は行くべきだと思うほど内容の濃い展覧会だった。

そして美しい宇宙を銀座の地下に閉じ込めたままクローズしていた「幻想の銀河」も、無事開幕となった。


7月

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▲ロンドン・ナショナル・ギャラリー(国立西洋美術館

6月あたりからだんだんと再開する施設が増えてきて、7月はこんな感じ。

西洋美術館は2020年のこの展覧会を最後に、長期休館に入った。高校生の頃、ロンドン・ナショナル・ギャラリーでウッチェロの《聖ゲオルギウスと竜》に一目惚れし、いつか再会したいと思っていたのだが、まさか上野で叶うとは。また、内藤コレクション第2弾を観ることができたのもありがたかった。

そして2020年、もしかしたら一番衝撃を受けたかもしれない「鴻池朋子展」。ここで体験したことは忘れないようにしたい。

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また、衝撃と言えば「きもの展」も凄まじかった。きものにそれほど興味がなくても圧倒されること間違いなし、それくらいプライドと「とんでもないものを作ってやる」という執念に近いパワーが全体に漂う展覧会だった。

そして我らが千葉市美術館、リニューアルオープンおめでとう!「本当は海外からいろいろ借りてくる予定だったけど、こんなことになっちゃったから借りられなくて、急遽収蔵品で展覧会組み立てたわよ~」という序文があったが、さすがは千葉市美。いつも通り期待を裏切らない暴力的な物量で質の高い展覧会を作っていた。あと個人的に図書室に惚れた。毎回行くたび寄っちゃう、近くに住みたいくらいの良き選書。

 

8月

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▲「ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」(サントリー美術館

依然としてピリピリした空気はありつつも、予約制にしたりと各館開催に奮闘。

「The UKIYO-E 2020」は日本三大浮世絵所蔵館(太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団)の展示。まあまあ混んではいたものの、平時だったらこんなもんじゃなかったろうな。平木浮世絵財団の持つ春信が素晴らしかった。会場、なんとなく以前CHANELでやった春画展に雰囲気が似てるな~と思ったら、同会場を手掛けたおおうちおさむさんが担当されていて納得。
そしてこの展覧会から「国内の所蔵品って、実はものすごいのでは?」と思うようになっていくのであった……。

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▲「The UKIYO-E 2020」(東京都美術館

そうそう、サントリー美術館もリニューアル。山口画伯の作品もあったりと新生サントリー美術館にわくわくした。展示は祝祭感にあふれていて、まだ閉塞感のあった気持ちに風を通してくれた。

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山口晃《今様遊楽圖》 サントリー美術館


9月

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▲「天文学者の部屋」(LECURIO)

いまトピで記事を書いた牟田陽日さん、LECURIOさんの展覧会、そして行こうと思った矢先に休館になってしまって再開を待っていたピーター・ドイグ展に行けたのも9月だった。

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▲「ピーター・ドイグ展」(東京国立近代美術館

ドイグのことは全く知らなくて、チラシを見て「絶対に行こう!」と思ったクチなんだけど、まとまって作品を観るとチラシで使われていた作品から受けるイメージとは違い、かわいい色使いなんだけど不穏というか、ムンク(叫び以外の)を観た時の印象に近かった。期待を裏切られたということではなく、全体を知ることができて良かったという気持ち。初期の方の作品が好きだったな。

川崎浮世絵ギャラリーは入館料が安いのにびっちり鑑賞できるし、キャプションもかゆいところに手が届く系なので嬉しい。加島美術の企画はこの「大絵画展」を皮切りに、書、古画とシリーズ全3回の企画で見ごたえがあった。
そういえば2021年は加島美術が取り上げたことで知名度を上げた画家の展覧会が2つ開催されますね。渡辺省亭と小早川秋聲。いずれも楽しみ(省亭の火付け役は、正しくは加島さんと山種美術館三の丸尚蔵館)。

日本伝統工芸展は、5年前くらいから毎年観に行っているので、今年も。

10月

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▲「桃山─天下人の100年」(東京国立博物館

 

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▲「宮島達男 クロニクル 1995−2020」(千葉市美術館)会場風景

いろいろあって心身共に参っていた10月、宮島さんの新作が纏う柔らかな祭壇のような光にかなり慰められた。また、自分の没年をイメージして打ち込み、その時まであとどれくらいの時間が残されているのかカウントダウンする作品では、想像以上に時間がないことが可視化され、ぞっとしたのもよく覚えている。

うーん、こうして見ると、10月は良い展示にたくさん行けたんだな。「桃山」、すごかった。チケットの値段にびっくりしたけれど、実際行ってみたら納得の内容で、後期も絶対に観たいとなって年パスを買った。個人的には《籬に草花図襖》を7年ぶりに観られて興奮してしまった。

大津絵も、実は1枚買おうかと思っているところだったので、名だたるコレクター達のコレクションを拝むことができて良かった。しかしさすが民芸に通じている人が多いせいか、表装のレベルが高い高い。民芸と大津絵は相性抜群だった。

内藤コレクション展もまさかの第3弾を拝見できて感無量。西美が休館に入る直前に行ったので、常設展をじっくり鑑賞した。

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▲内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」(国立西洋美術館)より

また、三菱一号館美術館で再びルドンに光を当てる展覧会を体験できたのも嬉しい限り。今回クラヴォーへの言及はなかったものの、色彩を得る前・得た後のルドンを体験できるし、なんといっても山本芳翠の《浦島図》が展示されているという、ものすごい展覧会。

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▲「1894 Visions ルドン、ロートレック展」(三菱一号館美術館)より ※許可を得て撮影

初めて行った漱石山房記念館も良かったし、たばこと塩の博物館は相変わらず入館料100円で立派なリーフレットまでつけてくれるし、洋館にはまった月でもあった。

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11月

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石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか(東京都現代美術館


11月は本当に盛りだくさんだった。特に「石岡瑛子展」は「落下の王国」のファンなので、リリースが出た時点で楽しみにしていたのだが、待った甲斐があり満足(夏に開催予定だったが会期が順延した)。

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また、学生時代に親しんだ石元泰博の展覧会が生誕100周年ということもあって都内2カ所で開催されたのは、ほんとーに嬉しいことでした。改めて観ると、学生時代より多少知識が増えたことで今まで理解が及ばなかったところにも踏み込めて楽しさが増した。

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▲「石元泰博写真展 生命体としての都市」(東京都写真美術館

そして「トライアローグ展」、こちらは横浜美術館の長期休館前の最後の展覧会。国内の収蔵品の底力を見たよね。怪我の功名というべきか、奇しくもこのコロナ禍で、国内のコレクションについて考え直す機会となったのでした。

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そうだ、横浜と言えば展覧会ではないけれどホテルニューグランドに泊まってクラシックホテルの美に触れた体験も自分にとって重要なものになった。
今後(己の)経済状況が好転したら、他のホテルにも泊まってみたい。

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12月

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▲「舟越 桂 私の中にある泉」(松濤美術館


舟越桂さんの展覧会は自分には珍しく始まってすぐ行った。Twitterにも書いたけれど、舟越さんの彫刻に対する感想は、ひと言で言って「恋」。
初めてスフィンクスを観たときの衝撃たるや忘れられない。どんなに見つめても見つめ返してもらえない、それがまた焦がれる気持ちに拍車をかける。そして唯一見つめ合える作品《夏のシャワー》。こちらの心をとらえて離さない聡明な瞳。ああ、金持ちになりたい。なって、舟越さんの作品を購入したい。お父様の舟越保武さんも大好き。

そしてgggで開催中の石岡瑛子展も、無料とは思えない内容だった。ここで火が付いた人はぜひ東京都現代美術館へ。

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▲「石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか」(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)


以上85の展覧会を観た。ギャラリー展示などはもう少し行っているけれど、ちゃんとログが取れていないものは省きました。

2020年を振り返って一番に思ったのは、国内のコレクションがとても立派であること。

コロナ禍に入る前から「コレクション/常設展を見直そう」という動きはあったけれど、奇しくもこの状況下でそれが急速に認知されることになった。上にも書いたけれど、これはある意味、怪我の功名であるように思う。

海外から借用したり、滅多に行くことができない他国の美術館の名品を拝めるのもありがたいけれど、しっかりした方針のもと集められた国内の収蔵品にも、引き続き注目していく必要があるなと思ったのでした。

あとはやっぱ、人が来ないとミュージアムの運営は大変なわけで……。何と言っていいかわからないけれど、私ができることと言えば自分の精神がお世話になっているところにお金を落とすくらいなので、コロナの煽りを食らってさらに低所得になってしまったからポーンと気前よくはいかないけれど、今後もコツコツ応援をしていこうと思います。ちりも積もればなんとやら。


2021年。

面白そうな展覧会が、すでに今月からいくつも控えています。

すぐさま元通りになるのは難しいだろうけれど、冒頭にも書いたように昨年のような思いはもうしたくないので、冷静に知恵を出し合ってうまく乗り越えていけたらなと願うばかりです。