雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

竹内栖鳳展 近代日本画の巨人 いってきた

@国立近代美術館

先月末の、台風が関東直撃した前日に行ってきました。 その日も一応台風がくるぞと言われていたので、人はそこそこ入っていたものの、噂に聞く現在の混雑状況から比べればかなり空いていたと思います。 Seiho_A4_omote 竹内栖鳳の作品をまとまった状態で見たのはつい最近で、昨年山種美術館で行われた展覧会が初めてでした。遅ればせながら&恥ずかしながら、そこで初めて意識した気がします。

さまざまな流派の要素を吸収し、さらには西洋へ渡って西洋画の技法も自身の作品に取り入れた栖鳳。 常に新しい表現を試み、自分の中で反芻してアウトプットする姿勢は同時代の画壇から反感を買うことも多く、「鵺派」と揶揄されていたそうです。※鵺は頭が猿で胴体が虎、尾が蛇という妖怪。ごちゃまぜ的な意味での嫌味。

でもさ、この時代の大成した画家のほとんどが鵺派に当てはまる気がするんだけども…。 今じゃむしろ「柔軟にさまざまな技法を自分のものにする変幻自在の作家」とか「ハイブリッド」とか言われるだろうになあ。

応挙も似たような感じで叩かれたりしてたけど、これ、叩かれ続けるストレスでせっかくの才能を不意にしてしまった画家はどれくらいいるんだろう。バッシングに負けず強い信念を持って生き残った者だけが本物だ!という根性至上主義なんて鼻で笑ってしまうような苛められ方することもあるし、創作のことだけ考えたいのに、小蠅みたいなのがちょっかい出してきて追い払うのに疲れ果てて折れてしまった人もたくさんいたと思うの。そのなかに、変な奴らに邪魔されずに伸び々々創作続けていたら大成した人もいたんだろうなと思うとそういったムラ社会的な仕組みっていつも新しい創造の足を引っ張るよな~と思うのです。(美術に限らず) 伝統を守ることと、新しい世界を閉ざすことは、別物よ。

閑話休題。栖鳳の名を聞くと、まず動物の絵を連想してしまいます。 もちろん風景画も山水画も(そして生涯3点のみの人物画も)描いているんですけど、抜きん出て動物のイメージ。もうね、第2室。わたくしは今回の展覧会の第2室を推します!!圧巻。かっこよすぎ。

まず、ジャブです。山種でも観た「百騒一睡」。また会えてうれしかったなあ。これ大好きなのです。全体の構図とか、それぞれの表情とか、そしてタイトルのつけ方までセンス良すぎる。

[caption id="attachment_518" align="aligncenter" width="450"]百騒一睡 百騒一睡[/caption]

四曲一双の屏風で、左隻にスズメの群れ、右隻には大きな洋犬とその子ども、洋犬を見あげるスズメ数羽。 左隻に群がるスズメが、もうひたすら可愛い。ちゅんちゅん言ってるんだろうなーって微笑ましくなる。 そして右隻の大型犬の静かな横顔。どこかで左隻のスズメを数えたら95羽まで数えられたというのを聞いたことがあるのだけれどスズメ+子犬たちでになるんだろうな。そして微睡む大型犬が匹。 たまにこういう、鳥が群がる系の絵を観ると「この人はちゃんと鳥をみているな」という人と、「鳥ってこういうものだろうという考えだけで描いているな」という人がいます。 栖鳳はちゃんと見てる! 特に、右隻の大型洋犬を興味深そうにみているスズメ。すごい観察しているなと思う。鳥を飼ったことがある方は見たことがあると思うけれど、鳥はこういう背の伸ばし方をするのですよ♡ senobi 対して、どんなにきれいな鳥を描く人でも、型としてとらえるだけで“生き物”になっていないのを見ると、うまいのにもったいないなと思うことがある。それは概念としての鳥であって、生き物としての鳥ではない。 で、栖鳳の絵を年代順に追ってみていくと、この「姿ではなく本質を描くことが一つのポイントなんじゃないかなと思いました。

まあ、それは後でまた書くとして、「第2室」に話を戻します。 百騒一睡を観て可愛さにきゅんきゅんしたところで振り返ると、その先は黄金の獅子、虎、象が堂々たる姿を現します。栖鳳37歳の作品!!! 待って。この虎も前に山種で見たけど年齢知らなかった!37歳って言った?37歳で虎て…!!対で黄金の獅子(ゴールデン・ライアン)て…!!(と、タイバニクラスタはその符号にうち震えるわけです) kotetu 山種と堂本印象美術館で見ることができなかった象が観たくて来たのですけど、うーん、象も良かったけども、虎とライオンがすごすぎた。もう、かっけーかっけー、それしか言葉でないわ。 それまで日本画で象と言えば白象の印象が強かったけれども、栖鳳の像は黒(墨)でした。金に大きな象はとてもゴージャス。でも、騒々しくなく凛とした雰囲気をもって堂々としています。 zou

残念ながらワイルドタイガーさんとタイガーさんと対になってるライアンちゃんは前期で帰ってしまいます(他のライアンちゃんはまだ居ます)。この虎と、栖鳳60代の虎は比較して観ると面白いから残念なんだけど、後期は山種美術館から斑猫が遊びに来るみたいですよ。栖鳳さんが八百屋の軒先で一目ぼれして頼みこんで譲ってもらったポスターにもなっている碧の瞳の猫ちゃん。

個人的には栖鳳は30代 40代くらいまでの作品が好きです。 20代の頃よりは余裕が生まれた中での挑戦。繊細だけれどもまだ荒々しさもある、不思議なバランスと色気。一方で、こんな熊も描いてる。(かなりでかい)

[caption id="attachment_587" align="aligncenter" width="300"]<熊> <熊>[/caption]

40代を過ぎると、新しいことに挑戦する姿勢は保ちつつも、ソツなくこなす上品さみたいなものの方が大きく出てきている気がしました(あくまで私見ですが)。

さて「姿より本質を描く」話にもどりますが、この頃(30代後半)の栖鳳は西洋から帰ってきたあたり。海外にいた頃は頻繁に動物園へ行って写生をしまくってたらしいです。百騒一睡も観察のたまものだと思うけれど、この虎・獅子・象(そして猿)も観察しているからこその動きをしている。写生も一緒に展示されているので、パーツを追っているのが見て取れます。

ただ、この先、年をとってから描いた虎と比較すると、もしかしたらまだ30代の時は「虎」を連想したときの既成概念が頭にあった上で観察していたのかもしれない。

toraこれは60代の頃に描いた虎なんですが、先の虎にくらべてモフモフ感は少なめ。水をたくさん含ませた筆で模様や毛並みを表しています。タイプとしては37歳の虎の方が好きなんだけど、「虎」という生き物として考えた場合、たぶんこっちの方が「虎」だと思う。横たわり方、前足の出し方、体のしならせ方、筋肉と骨の動き方。

虎に限らず、松にも蛙にもそれは言える。既成概念をまず取り払って、まっさらに近い状態で観察している。そして更に、筆数がとても少なくなっている。前述のように含ませた水の量で、今まで描いていた部分をグラデーションで表現している。例えば蛙。足がもつ筋肉の重量も、最低限の線のみでその厚みや重み・水を蹴りだすしなやかさを表現しているのです。

日本画は省筆を尚ぶが、充分に写生をして置かずに描くと、どうしても筆数が多くなる。 写生さへ充分にしてあれば、いるものといらぬものとの見分けがつくので 安心して不要な無駄を棄てることができる。”

前回メモった栖鳳の言葉。 絵だけではなく、様々な事に言えることだと思うのだけれど、栖鳳の絵をみているとそれを実行しているのがよくわかります。年をとって”描く”という経験が積み重なったとしても写生はやめない。自分のなかに対象が落ち着くまで、何度も何度も丁寧な準備運動のように行うのだと思いました。

で、60よりはもう少し若い頃の作品になりますが、生涯3点しか描かなかった人物画のうちの1つ、「絵になる最初」(クリックで大きくなります)

[caption id="attachment_582" align="aligncenter" width="142"]<絵になる最初> <絵になる最初>[/caption]

これさー タイトルのセンス天才じゃね?と思うのは私だけでしょうか。 もう「絵になる最初」って言われたらそれ以上のタイトル思いつかないし、逆によくそれ思いついたね?!ってびっくりする。 この絵のエピソードをご存知の方はたくさんいらっしゃると思いますが、一応書いておきますと、ヌードモデルを頼んだ女の子がいざ脱ぐ段階になって恥ずかしくなっちゃったという・・・。 彼女普段はそこそこにアグレッシブなキャラなんですって。でも、いざとなるとやっぱり女の子で、「はーい準備してくださーい」って言われて「あ、はい、えっと、…」みたいになっちゃったんだろうなっていう、なんかこうヌードなんだけどこっちもちょっと照れてしまうっていうかホンワカ純粋な気持ちになってしまう絵なんです。そこで重要なのは、”ヌード直前で照れた若い子”っていうものの”イメージ画像”じゃなくて、彼女の性格的なものが表れているという点。 たぶん「えっと、はい、」的なタイミングの瞬間を栖鳳は見逃さなかったんだと思う。で、この子の性格の本質っていうのはこの瞬間なんだろうなと思って、じゃあ別にヌードにならなくても本質が描けるわけで(単にシチュ萌えしただけかもしれないけど)、そのままの状態でモデルやってもらったんじゃないかしら。 だから女の子の顔が「えー?!このまま描くの~?もーよけい恥ずかしいよ~///」っていう表情に見えてきて、顔もちょっと赤いし、あーもう栖鳳もこの子も可愛いなあ~と思っているところに「絵になる最初」っていわれたらもう、絵とタイトルのコンボで完敗です。

 

栖鳳、本当に上手くて安心クオリティなんだけれども、それはやはり観察に観察を重ね、そこから写生をさらに重ねて自分の手に対象を憑依させるくらいにまで持っていっているからなんだなと思いました。 天女を描くにも、実際見ないとってことで、天井からモデルを吊ったっていうから…

幸運にも後期も観に行くことができそうなので、班猫をはじめ、アレタ立になどを観てきます。 上手い!かわいい!かっこいい!!三拍子みごとに揃った栖鳳展でございました♡

竹内栖鳳展 近代日本画の巨人  @国立近代美術館 *2013年9月3日(火)~10月14日(月) *10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00) ※入館はそれぞれ閉館の30分前まで (公式ホームページ)