雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

興福寺仏頭展いってきた

東京藝術大学大学美術館

興福寺仏頭展

ズバリ、本展で仏頭大使を務めるみうらじゅんさんと、いとうせいこうさんの音声ガイド目当てで行った展覧会ですが、それを抜きにしても行って良かったと思える内容でした。けれど、これから行かれるのであれば、ぜひ、お二人のコメントが入った音声ガイドを聞いてほしいなと思います。(時間があれば、見仏記の1巻を読んでから是非) 大使

とある女神様にチケットを譲っていただいて行って参りましたが、前述の通り、音声ガイドが聞ければいいや~というノリだったのですよ。だって興福寺何回も行ってるし。でも、興福寺の所蔵品の点数が多いことと、展示場所が変わると見せ方が変わるということをすっかり忘れていました。

3階。3階が凄すぎる。 これがホントの仏ゾーンですよ。 2011年夏に東博・平成館でやった「空海密教美術展」での3D曼荼羅は記憶に新しいですが、まさにああいう感じで360度十二神将を見ることができます。 「空海密教美術展」では大威徳明王とか後ろの方にいて前の仏に隠れちゃってる仏も間近に見ることができたり、日本一のイケ仏(イケてる仏像)として名高い帝釈天の背中を見ることができたりと大満足だったのですが、同じ感じで十二神将がね、目と鼻の先ですよ。しかもガラスケースとか無いから、小さなライブハウスのステージ下のオーディエンスになった感じで見ることができます。

展覧会は地下2階と3階の2フロア。 展示構成は 第一章: 法相宗の教えと興福寺の絵画・書跡 第二章: 国宝 板彫十二神将の魅力 第三章: 国宝 銅造仏頭と国宝 木造十二神将 地下2階から始まる第一章、入ってすぐに「厨子入木造弥勒菩薩半跏像」が。

[caption id="attachment_677" align="aligncenter" width="578"]<厨子入木造弥勒菩薩半跏像>厨子入木造弥勒菩薩半跏像>[/caption]

厨子弥勒菩薩像は別展示なので、菩薩像も正面・左右から見ることができるし、厨子も本来菩薩像が納めてある内側も見ることができます。 厨子各面とも両開きの扉で、内面には菩薩や天、祖師が描かれていますが、厨子弥勒菩薩像を納めることで、厨子に描かれた天たちが弥勒菩薩を囲んで話を聞いているように見えるという凝った造りになっていました。

この厨子、写真では分かりにくいのですが、天井から下がる飛天が厨子の中を舞っていて、それはもう優雅でたまりません。シルク・ドゥ・ソレイユみたい。

主に最初の展示室は法相宗についての紹介がメイン。なので、玄奘三蔵や慈恩大師関連のものがありました。法相宗とは詳しい方にツッコミ入れられると苦しいけれど、超かいつまんで言うと「あらゆる事象は人が認識したものだよ」という唯識論に基づいていろいろ研究していった宗派。最遊記好きな方は盛り上がると思います。

私の勉強不足ってのもあるけど、法相宗にそれほど詳しくないのと経典読めないのとで、書跡見ても「和様の書」の時のように字の流れるさまとかを楽しむ程度で来歴まで楽しめなかったのが勿体なかった。。ただ、成唯識論の春日版板木は難しいことを知らなくても見てわかる素晴らしさでした。木に彫った文字がこんなに美しいとは。(※春日版とは興福寺から刊行された木版刷りの経典) 他にも「大般若十六善神像」は、大般若波羅蜜多経の題号を中尊として周りに般若経の諸尊を置きつつシチュエーションは三笠山春日大社)!という神仏習合が分かりやすく描かれていたもので面白かったです。

で、個人的に第二章からテンションあがってくるわけですが、来た!国宝 板彫十二神将。 ぶっちゃけた話、興福寺で見てるし、お土産の十二神将手ぬぐいも持ってるんだけど、何度見ても面白い。

[caption id="attachment_679" align="aligncenter" width="660"]<板彫十二神将像> <板彫十二神将像>[/caption]

通常オモシロ担当って邪鬼なんだけれど、邪鬼並みに面白い。 薬師如来の台座部分にはまっていた板ですが、結構大きいので、台座がこの大きさだとすると、薬師如来はかなり大きかったんだろうなと予想できます。 仏師のブームの中に板彫のブームもあったんだけれど、結構すぐに終わってしまってよりフィギュア感のある丸彫りに変わって行ったそうですが、薄い板にうまく陰影付けてあって、これはこれで立体感が出ていて楽しめます。先日観に行ったミケランジェロ展でも「階段の聖母」という作品がありまして(ミケランジェロナイト行ってきた にちょっと書いていますが)、それを思い出しました。うん。レリーフの独特の面白さっていうのもあると思う。2.5次元的な。

で、ここで十二神将の姿を頭に入れていざ3階へ。お待ちかねの第三章です。

エレベーターから降りて展示室入った瞬間心の中で「うわあああああああ!!!」と叫ぶこと請け合い。展示室にぐるっと十二神将が立ち、その向こうに仏頭。十二神将と仏頭が同じ空間に展示されるのは、なんと600年ぶりだそうです。

もうね~ かっこいいんだよ~。歌舞伎の見栄きってる感じっていうか、決めポーズっていうか、腰つきとか顔とかみーんなかっこいい。(内部は撮影できないのでリーフレットからのご紹介になりますが、これはぜひ実物を見てほしい…迫力がすごすぎる) 当時の貴族ですら見ることができなかった背面にまで回れるわけで、それは今だから体験できること。これらを創った仏師だけが体験できた視界を、後世に生まれたっていうだけで私も見ることができてしまうなんてありがたい話ですし、鼻もちならない貴族ざまぁです。 3 十二神将と干支が結び付けられたのは結構後かららしいですが、慶派の人たちが彫ったこれらの像はもう干支と結び付けられたあとのものなので、こう、みなさん頭のてっぺんにそれぞれの動物をくっつけておりまして、招杜羅大将(丑)とか顔がすげー怖いんだけど、頭の上の牛さんは可愛いっていう、強面の人がサンリオ好きみたいなギャップがあってとても微笑ましいです。 音声ガイド聞くと仏頭大使のお二人による十二神将トークが面白すぎますが、特筆すべきは仏ション(仏像+ファッション)。腰でしぼったAラインと、豊かなドレープ、それぞれのブーツやサンダルもとても凛々しく見ていて飽きません。

肝心の仏頭、エピソードはとても良いんだけれど、どうしても十二神将に心を奪われてしまってですね・・・

[caption id="attachment_681" align="aligncenter" width="203"]<銅造仏頭> <銅造仏頭>[/caption]

これも相当大きい仏像だったわけで、それがそのまま残っていたら(まあ残っているのが本当は良かったんだけども)こんなに近しい高さでご尊顔を見ることはできなかったのだなと考えると不思議な気持ちになりました。きっと顔より顎ばかり拝むことになったに違いない。 興福寺は何度も火事やらで被災しており、このままじゃ東金堂の本尊がだめになってしまうっていうんで頭だけでもと当時の僧侶たちが必死で隠し、時を経てまた姿を現したときには金は全て剥がれ落ち、片耳が欠損してしまっていた。それは損失であることに違いないけれども、仏頭大使のみうらさんといとうさんは「欠損があっても尚美しいということはすごいことだし、シンメトリーであったものがアシンメトリーになることで、すこし人間らしさみたいなものが加わって親しみやすくなっている」と仰っていて、ああなるほどなと思うと同時に、長い年月を経ることで自然と同化しつつあるカンボジアの遺跡の仏を思い出しました。

時が経つことで姿が変わることがあるけれども、それは劣化ではなく自分のなかに時間を取りこんでいく姿でもあるのだ。服を重ねて着れば見え方がかわるように、時間を重ねていくことで見える姿が変わることなのだ。

まあ、なんだかんだ言って十二神将が一番良かったんですけども(仏頭ごめん)、これはやはり写真ではなくそのものをぐるっと眺めることで感じることができる良さなので、11月24日までやっていることですし、ぜひ行ってみてください。あと、仏頭タイムスミュージアムカフェはちらっとでも読んで行くと吉!!

興福寺創建1300年記念国宝 興福寺仏頭展 (公式サイト)http://butto.exhn.jp/ 会期: 2013年9月3日(火)- 11月24日(日) 午前10時 - 午後5時 (入館は午後4時30分まで) 休館日: 毎週月曜日 (詳しくはサイト参照)