雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

夏のおわりに〈ひみつ堂〉と〈全生庵の幽霊〉と

夏の終わりに、夏らしいことをまとめて体験してきました。

ひみつ堂

かき氷に100円以上払うとかないわー、という話を以前友人としていたんですけども、やはりそれなりにお値段のはるものはそれなりに素晴らしかったのでした。

かき氷食べに行こうよ! と誘われて、谷中にある「ひみつ堂」という店に行ってきました。 誘ってもらわなかったら、たぶん生涯行くことはなかったと思うな。感謝。

ひみつ=氷蜜というだけあって、シロップではなく濃厚すりおろし果汁。 そしてヨーグルトがかかってる。 800円くらいするんだけど、ふわふわの氷と果物の蜜に、かき氷といえど侮れん、と思ったのでした。

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himitsudo.com

 

 

全生庵 三遊亭圓朝の幽霊画コレクション


その後、全生庵で幽霊画。 同じく谷中にある全生庵は、山岡鉄舟ゆかりのお寺。 徳川幕末・明治維新の際、国事に殉じた人々を弔うために明治16年に建立されました。

鉄舟と仲が良かった落語家・三遊亭圓朝の幽霊画コレクション(50幅)がこちらに納められており、8月になると一般公開されるのです。(ここ暫くやっていなかったそうですが、また復活したそう)
全力で生きる! みたいな名前なのに、幽霊画がたくさんあるというのも面白い。

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全生庵・幽霊画の展示はお隣の建物

50幅全てが並ぶわけではないのだけれど、30くらいは出ていたかなあ。
がっつり見放題、迫力の露出展示です。
何が出品されているのかわからないまま行ったのだけれど、見れば鰭崎英朋があるではないか!
いつか観たいなと思っていたので、偶然の出会いに興奮しました。

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鰭崎英朋《蚊帳の前の幽霊》部分

これ、本当に本当に美人なのだ。
化けて出てきているくせに、どことなく申し訳なさそうっていうか、シャイな感じがまた良くて、「せっかく来たんだから、もっとこっちおいでよ!」と声をかけたくなるっていうか……。
英朋の描く女性は控えめで儚く、透明感があって綺麗なんだよなあ。怪談らしさというか、浪漫があります。

あと、先日書いた幽霊妖怪大全集にも出てきた応挙の幽霊がここにもいた。
キャプションには「描表装」とあったけれど、単に軸装にする前のやつなんじゃないの?っていう……。でも「妖怪大全集」で観た応挙の幽霊にそっくりでした。
これ何枚あるんだろ? アイルワースのモナ・リザ的な?
そんな疑問にお誂え向きのキャプションが面白く、以下のようなことが書かれていました。

「そもそも完全に円山応挙が描いたと確定されている幽霊画は存在しない。存在しないけれど、応挙の幽霊画と言われるものは多数存在する。そんなわけで、”応挙の幽霊画”というもの自体が幽霊のようなものである」

良く言えば「粋な説明」、悪く言えば「物は言いよう」なんだけど、なんとも圓朝ゆかりの寺らしく、思わずにやりとしてしまった。

ちなみにこの応挙の隣の隣に、「応挙の幽霊」とほぼ同じ構図・同じルックスで、グラップラー刃牙みたいな顔の幽霊がいて面白かった。(作家とタイトルを控えておけばよかったな)
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参考資料:グラップラー刃牙

あと、高橋由一《幽冥無実之圖》も、おしゃれな感じでとても良かった。
一瞬幽霊画に見えないところも面白く、「え、幽霊? あ、ここにいるのか!」っていう感じの、どことなく洋風な絵。

また、河鍋暁斎の作品も。横浜そごうで見た完全トランス系に比べ、こちらはジャン・コクトーばりの小洒落た幽霊でした。表情もどことなくニヒル

美人といえば前述の英朋だけれど、池田綾岡皿屋敷も美人の幽霊だった。
幾つかまとまった数の幽霊画を観ていくと、単に恐ろしいとか美人なだけじゃ受け入れてもらえないジャンルなのだなということが分かります。良い幽霊画は必ず一癖あって、この《皿屋敷》もまさにそれ。
タイトルから百物語の「番町皿屋敷」のヒロイン・お菊であることは分かるのですが、肝心の顔を袖で隠している皿屋敷はお菊がその美しさゆえに振った男からの逆恨みによって憂き目に遭うというお話しなので、当然お菊の幽霊画と言われたら「さて、如何ほどの美人が描かれているのか」と観る側は期待すると思うのです。
でも、肝心の顔は描かれていない。
いないのだけれど、「絶対美人でしょ」とわかるオーラが全体を覆っているという……。こういう一癖があり、且つ観る人を唸らせる絵でないと良い幽霊画という評価は得られなかったんじゃないかな。いやはやハードルの高いジャンルです。
そんなお菊の向かいにいた應岱の夫婦幽霊。奥さまの方が、完全に電気グルーヴの「カフェ・ド・鬼」のMVに出てくるピエール瀧そっくりで、こちらもかなりのオーラが出てたのが印象的でした。
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参考資料:カフェ・ド・鬼 MV

ちなみに《夫婦幽霊》はこちら。円朝の芝居本の表紙になっていますね。



幽霊画はどんなにリアルに描かれていても、ホラーやオカルトのフィクションあってこその味わいがあるのだけれど、月岡芳年《宿場女郎圖》はリアルすぎて切なさすら漂っていた。
それもそのはず、モデルは芳年東海道藤沢駅の宿場で見た、病んだ女郎。こう、全体的に幸が薄いというか、悲哀があって辛かった……。
逆にちょっと可愛かったのが中村芳中《枕元の幽霊》。まあ芳中だからそこは折り紙付きなのですが、憎らしそうにゆがめた口元が「ケッ」と悪態ついているようで、顔はぜんぜん可愛くないんだけど、キャラが抜きん出て良い。
そしてすごーく可愛かったのが歌川芳延《海坊主》。これは本日のMVPでした!この、「のーーーーん」というのっぺらい感じがとてもユニーク。白い丸は月で、ここだけ胡粉で描かれている。

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歌川芳延 《海坊主》※部分



他にも美しいのから家にあったら怖いなあというものまで、よりどりみどりでございました。
何と言っても迫力の露出展示、じっくり見放題というのが魅力です。

そんなわけで、谷中でかき氷を食べて散歩して、幽霊画を眺めてその後神輿に遭遇するという、なんとも過ぎゆく夏を見送るには上々な一日でしたわよ。

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