雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

ダレン・アーモンド追考 行ってきた

水戸芸術館

以前大学で仏教学を専攻していたという友人から、授業の一環で比叡の千日回峰業ルートを行者と一緒に真夜中巡った(というか走った)という話を聞いた。 友人「ロープを持つのは何故ですか?命綱?」 行者「いや、修行に失敗したらその場で首を吊れということです」

そんな荒行の映像がダレン・アーモンド展にはある。

ダレン・アーモンド展へ行ってきました。 昨年国立新美術館で行われたアーティスト・ファイルという展覧会で月の光で撮影した風景写真がとても美しかったのが印象に残っており、この人の作品のもっと見てみたいなと思っていたのをすっかり忘れていたところ水戸芸術館のチラシを見て思いだし、東京駅からバスに乗って旅行気分で行って参りました。(※水戸芸術館は現在放映中の仮面ライダー鎧武のロケ地でもあります!!)

 

[caption id="attachment_807" align="aligncenter" width="300"]Civil Dawn@Mt. Hiei Civil Dawn@Mt. Hiei[/caption]

 

 

全体のテーマは”ALL THINGS PASS(すべては過ぎ去る)” だと思うんだけど、それは単に過ぎ去っていくだけでなく、過ぎ去るものは様々なものを降り注ぎ、残し、目の前を通っていくという感じなのだと思う。

入ってすぐにある大量の時計<Tide>。 この作品と、壁にかかっている<The last line>という作品から時と事象をめぐる一考察の旅がはじまる。<Tide>、1分間この前の立ってみると、時が刻まれることの手応えを体験できる。大量のレディメイドの製品を作品にすること、そこにサインを入れることはどことなくデュシャンのよう。(右下の時計に注目!)

ここで時間に対する意識がセットされる。 ここから先は、普段見落としてしまうもの・気にも留めないものが過ぎゆくのを、全神経でキャッチする世界がはじまる。<The last line>の言葉と、言葉から反射された虹色の光で余分なものを洗い流し、<Tide>が時を刻む音を聴いた瞬間、先ほどまでの自分と切り離されるのだ。

 

さて、この展覧会には真っ暗な部屋が幾つかある。 暗い部屋には映像が流れているのだけれど、部屋が極端に暗いのは映像機器的な問題ではなく、真っ暗な部屋で他の存在を一切意識せず、ただ作品と向きあってこそ、はじめて正確にうけとめることができるからではなかろうか。 計画無き繁栄への代償により荒れ果て、汚染され、打ち棄てられた土地に対する冷静なまなざしや、記憶の牽引作業。また、圧するような闇の中、山中を巡り念仏を唱えることでむき出しになった感覚や精神の奥底に見えるものは何なのか。そして過ぎゆく天と地を行くもの。これらは漆黒の闇の中で、ただそれだけを見つめることで受け止めることができるのだと思う。

私がこの展覧会で気になった作品のひとつ、比叡山千日回峰行を撮影した映像作品<Sometimes Still>。内容はシンプルで、ダレン・アーモンドが行者と並走して、その様子を撮影したもの。 たったそれだけなのだけれど、この作品を観る前と観た後では、今まで観た作品が違ったものに見えてくる。とくにこの部屋の前にある<Civil Dawn@Giverny>、これはタイトルの通りモネの睡蓮で有名なジヴェルニーで撮影されたあじさいの花の写真なのだけれど、まったく別の作品に観える。いや、作品は同じなのだけれど、印象が全くちがう。あじさいだけじゃない。他のものも、全部ちがう。 太陽の光を受けて回る<ラウシェンバーグマントルピース>も(これは彼の恋人ジャスパー・ジョーンズの家のマントルピースの上にラジオメーターがあったことからラウシェンバーグの家にも当然あるだろう?というダレンによるユーモア)、<Civil Dawn@Mt. Hiei>も。 私は修行、していないのにね。していないのに、漆黒の比叡を歩く姿、その声を聴いただけで、こんなにも”何か”が変わってしまうのだ。

[caption id="attachment_809" align="aligncenter" width="450"]<Sometimes Still> <Sometimes Still>[/caption]

 

 

ほらね?すべては過ぎ去っていくだろう? ”ALL THINGS PASS” ぼんやりしていると、途中で声をかけられる。

 

その後も過ぎ去るものを受けとめながら、見送りながら、見つめながらの旅は続く。

そして、最後の部屋で待ちうけるもの。

 

水は、喉をならすように滴る。 雲は湧きたち、流れ、渦巻く。 たゆたう。滲む。 いかないで。いってらっしゃい。 物質・表面・触れられないもの・見えないもの。

薔薇色の空。

 

全ては過ぎ去る。

 

 

ここでダレン・アーモンドに用意された部屋は終わり、再び<Tide>の前に立つと時が刻まれ、元の世界にもどっていく。 それでも最初に切り離した今までの自分にはもう戻らないし、全身には突き抜けていった”過ぎ去ったもの”のかけらが残っている。

全ては過ぎ去るけれど、過ぎ去ったものをみた経験は残るのだ。

[caption id="attachment_782" align="aligncenter" width="372"]<Civil Dawn@Giverny> <Civil Dawn@Giverny>[/caption]