ワンフェス常連におすすめ <超絶技巧!明治工芸の粋 ―村田コレクション一挙公開―展行ってきた>
京都は清水寺までの道に「清水三年坂美術館」という工芸品を扱っている美術館があります。いつも寺をまわるのに忙しく、つい見逃してしまっていたのだけれどこんなお宝を持っていらしたとは……。 今回の展覧会は、清水三年坂美術館の館長・村田理如氏のコレクションが公開されています。幸運にも、この展覧会を監修された山下裕二先生と村田館長のトークが聞ける特別観賞会に参加することができたので、その模様を交えつつご紹介したいと思います。
まず、この明治工芸のなにが凄いってタイトルにもなっている超絶技巧がポイントなのですが、超絶技巧ってそれを担保に評価を得てしまうこともあったりで、微妙なところもあるのですよね。とにかく細かく手間かけてやってるから作品全体のレベルはパッとしなくても見逃してよ~っていう。 しかし、ここに展示されているものはそういう担保を一切抜きで考えてOKです。や、最初は作家もそういうつもりでやっていたところがあるかもしれない。けれど、作品を作り続けていくうちに、そういった”逃げ場”を完全に無視して、もう他人の評価とかは二の次でとにかく持ってる技術全部つぎ込んで作るぞってことに没頭したんじゃないかしら。これはアレですよ、とにかく自分が納得いくフィギュアを作ろうとしている人のソレに通じるものがあります。最初はレディメイドのものをちょっと塗装するだけだったけれど、そのうちパーツを自作してワンフェスやキャラホビに出店するまでに至るという……。なので、そういうのが好きな人にはぜひオススメしたい展覧会であります。 (※写真は観賞会の様子。黒いスーツが山下先生、水色のスーツの方が村田館長です。以下の展覧会場の写真は、美術館に許可を得て撮影したものです)
会場はとても優美で、入ってすぐのスペースはこんな感じ。
このクラシカルな内装に、工芸品がとても映えるのです。 山下先生曰く「展覧会はつかみが大事!」の”つかみ”を担ったのが並河靖之の七宝<花文飾り壺>。
[caption id="attachment_969" align="aligncenter" width="290"] 並河靖之
<花文飾り壺>[/caption]
これが、もー可愛いのなんの……! ロシアとかチェコの雑貨好きな人は欲しくなる系のかわいさ。側面に白く垂れているのは藤の花。説明によりますと、この花びら1枚は1mmの大きさで描かれているんだって。それがこんなにたくさん…!!この並河靖之という人の作品はみんな可憐かつゴージャスでとても可愛い。そして並河靖之をはじめ、会場で紹介されている作家たちのすばらしいところは、そういった「細かい作業をしていること」ではなく、「全体が完成するのに必要だった細かさを超絶技巧を以て成し遂げている」ところ。技術だけが暴走せず、デザインと見事な調和をはかる様子は、まさに音楽のようです。
超絶技巧はただ細かいだけではありません。 本物と見紛うばかりの彫刻もまた、明治工芸の特徴です。その代表が安藤緑山。
これ、ぜんぶ彫刻(牙彫)です。竹の子なんて皮のケバ立ちまで再現されていますし、光が透過しそうなほど葉が薄く作られているものもあります。しかもすごいのがこれら全てが<自立>しているということ。どんなに華奢なものでもアンバランスに見えるものでも、クリスタル等で支えをつくっているわけではなく、これだけで自立。他に支えを必要としません。 私はこの安藤緑山こそ、生粋のフィギュアオタだと思うのです。 緑山に関する情報は殆ど残っておらず、こんなに素晴らしい作品を作る技術を持っていながら弟子をとることも一切なく、一代限りで幕を下ろしています。さらにはコンペ(のようなもの)に出展する際も、他人の名前を借りていたとか。 自分が有名になることなんてどうでもいい、とにかくただ自分の制作に没頭し、すごい物をつくるという姿勢にはブレがありません。まさに「さすが緑山!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ!」ですよ…。
で、緑山は野菜や果物がメインですが、生き物の姿かたちのみならず、その稼働域までをも再現したのが「自在」というジャンルです。 読んで字の如く<自由自在>に動くもののことですが、この<自由自在>レベルがすごい。ホントに生きているかのように、どんなポーズも<自由自在>!
[caption id="attachment_980" align="aligncenter" width="300"] 明珍
<へび>[/caption]
たとえばこの蛇(↑)、260個の鉄パーツを精巧に組み合わせて作られており、このように地を這う姿はもちろん、とぐろを巻きかける瞬間なども思いのままに再現可能です。「このポーズをとらせたいけど、稼働域が……」なんていうお悩みは一切無用!好みのポーズでばっちり決めてください!ほかにも水中をうねる様に泳ぐ鯉や、伊勢海老、カマキリなど多数展示されています。(※鯉は、実際に動かしている動画も会場にありました)
今回会場にきているのは印籠や漆工、薩摩焼、刀装具、刺繍絵画などなど。これら多岐にわたる工芸品にはため息が出るばかりですが、個人的に金工の雰囲気がとても好きでした。
[caption id="attachment_985" align="aligncenter" width="234"] 村上盛之
<冬瓜大香炉>[/caption]
元来、刀剣や刀装具、甲冑、馬具などを作っていた金工師たちは、武士階級という強力なバックボーンを失った明治維新以降、暮らしていくために新たな製品開発を行いました。それが、この金工のカテゴリで紹介される置物や花瓶、皿、高炉です。 生活のためにはじめた制作だったのだろうけれど、まあ、こういうのは続けるうちに代々受け継がれたおたくの血が騒ぐようになるわけで、結果どんどんハイレベルなものを作るようになり、それらが欧米人に大ウケ。作品はどんどん海外へ輸出されていくようになります。村田館長は、それらの作品をオークション等で買い戻されているとか。 金工だけでなく、七宝も海外で高い評価を得ているそうだけれど、実物見ると「これは人気出るわ」と納得します。かっこいいし、ちゃんと可愛さも持ってる。そら欲しくなるわな……
上記のように明治の超絶技巧というと(それだけではないとは言え)圧倒的な細かい作業が目立つように見えますが、パっと見そこまで細かくはないけれど、実は凝っている柴田是真の作品なども展示されています。
[caption id="attachment_989" align="aligncenter" width="225"] 柴田是真
<木目蒔絵残菜入>[/caption]
これは是真作のドギーバッグ。残菜入(ざんさいいれ)とは、字の如く、宴の席などで食べきれなかった分をお持ち帰りにする、いわばタッパーのようなものです。以前ご紹介した山種美術館のkawaii展でとぼけた顔の蛙を描いた是真はもともと漆工専門。一見シンプルな絵柄に見えますが、よくみると年輪状の木目を金研出蒔絵で描いていたりと技が光ります。我が国の漆工の歴史はじつに約9千年(!)を誇りますが、この明治期こそ、その技術が史上最高レベルに到達したと言われており、なるほどこれらの作品を観ると、その事実を大いに納得させられます。 このように、様々なジャンルにおける工芸の一級品が揃っていて眼福ものなのですが、その作品の向こう側にある職人たちの熱意を感じられることが、この展覧会の醍醐味なんじゃないかなと思えました。冒頭にも書きましたが、デザインフェスタやワンダーフェスティバル、キャラホビに行くのが楽しみだったり実際に出展していたりする人には、きっと共感できる部分がたくさんあるだろうし、影響を受けると思います。 作品のほとんどが海外に輸出されていたということもあり、今まであまり脚光を浴びてこなかった明治の工芸ですが、実はものすごくレベルの高い時代だったわけで……。これを機に、薄っぺらい言葉だけの「ものづくり」なんかではなく、真に迫ったものづくりについて文化が見直されることを願います。
[caption id="attachment_990" align="aligncenter" width="300"] 無銘
<蟹>
こんな風に小さいので
ルーペが設置されているものも[/caption]
超絶技巧!明治工芸の粋 -村田コレクション一挙公開-
会期:4月19日(土)~7月13日(日) 場所:三井記念美術館 時間:10:00~17:00(入館は16:30まで) 毎週金曜は19:00まで(入館は~18:30) ★山口晃画伯が解説されている特設ページはこちら http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html