雨がくる 虹が立つ

ひねもすのたりのたり哉

2021年を振りかえる

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エントリではほぼ触れていませんが、今年もトーハクの総合文化展には楽しませてもらいました

残念ながら2021年も、新型コロナウイルスの影響を受けた年になってしまった。

普段、美術業界の末席で仕事をしているため、特に前半は散々な目に遭ったなァというのが大きな所感である。とはいえ、新しい出会いや「こんな時だからこそ」の良いお付き合いにも恵まれた。よって、総じて仕事面での人間関係は良いものだったなと思っている。

「虹はじめてあらわる」としての大きな出来事といえば、なんといってもいまトピ」に加え、「美術展ナビ」でも展覧会紹介などの記事に携わることができたということに尽きる。どちらもフレンドリー且つ良くしてくださる編集部なので、今年はもっと良いものが書けるよう努力する所存であります。

そんなわけで、大変なことはありつつも美術を楽しみ、関わることができた1年に何を観たかということを書いていこうと思う。以前は10選としていたが、私は絞るのが下手で番外編が長くなってしまうため、記憶に強く残っているものを月ごとに振り返るメモ形式で挙げていきたい。

メモなので文章として読みにくい部分も多々ありますが、何卒ご了承ください。ちなみに2021年が明けてすぐ、私は「今年楽しみにしている展覧会」をこのように挙げていました。

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1月

2021年の展覧会初めはアーティゾン美術館の「琳派印象派だった。
お目当ては宗達の《蔦の細道図屏風》。相変わらずすごい屏風だ。他にも名品がずらり。まあ、正直なところ印象派と絡めなくても良いのでは……と思ったりもしたけど……。

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琳派印象派

その後東京国立博物館の総合文化展をハシゴ。一年の計はトーハクにあり。
ほかに舟越桂」展(松濤美術館の後期、田中一村展」(千葉市美術館)漱石山房の津田青楓」(漱石山房記念館)、「坂本トクロウ デイリーライブス」(武蔵野市立吉祥寺美術館)、そして東京都美術館で開幕した「吉田博」などを鑑賞した。

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吉田博を新版画とするかどうかは意見が分かれるかもしれないが、本展を筆頭に2021年は新版画の当たり年であったように思う。

大きいところで言えば2月に太田記念美術館笠松紫浪展(笠松は山梨や徳島でも)川瀬巴水に至っては平塚市美術館、大田区立郷土博物館、そしてSOMPO美術館でも行われた(他にもあったかも……)。

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川瀬巴水 旅と郷愁の風景(SOMPO美術館) 摺立順序の展示も

加えて6月に川崎浮世絵ギャラリーでの「川瀬巴水と新版画」も素晴らしかった。ノエル・ヌエットに石渡江逸など、まだまだ知らない作家がたくさんいることもわかった。

ほかにも8月に日本橋高島屋で「千葉市美術館所蔵 新版画」が開催されており、この辺はコロナの感染者数がひどいときだったのでお客さんが少なく、良いものがたくさん出ていたのにもったいない……と残念な気持ちに。新版画は再燃の動きが見えているので、今後さらに盛り上がってほしい。

また、冨安由真さんの「漂泊する幻影」(KAAT)にも行った。東京より先に行くのは久しぶりで、おっかなびっくり横浜まで遠征したが、行った甲斐あり。その後、愛しのホテルニューグランドのロビーと、休館直前の横浜美術館で「トライアローグ展」を再訪。

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そして忘れてはいけない、2021年の頭はまさに「雪岱尽くし」であったことを。

1月下旬に日比谷図書文化館でスタートした「複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華~」では雪岱コレクター・真田幸治氏のコレクションがこれでもかと並び、大量の雪岱を浴びたな~と思うも束の間、間髪入れずに翌月には三井記念美術館で「小村雪岱スタイル」が始まるという嬉しい悲鳴の年明け。「あやしい絵」展でも雪岱エリアが作られていた。

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左:日比谷図書文化館、右:三井記念美術館

2月

国立新美術館佐藤可士和展」。いろんな意見があったものの、私は結構楽しめました。というか、いかに自分の身の回りのものが佐藤可士和によるデザインであるかを思い知った。

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佐藤可士和

面白かったのは練馬区立美術館の「電線絵画展-小林清親から山口晃まで-」
画伯の名前を冠した展覧会だったので期待を込めて行ったのだが、「電柱図解」「電線年表」から始まり最後は恭しく碍子がケースに収められているという、終始一貫した電線(電柱)愛に脱帽。そうそう、藤牧義夫の《隅田川絵巻》に再会できたのも嬉しかった。

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電線絵画展

興奮したのはパナソニック留美術館の「香りの器 高砂コレクション 展」。チラシのデザインの良さに惹かれていったのだが、期待を裏切らない展示だった。
香水瓶そのものに負けないほど美麗な「ピヴェール社化粧品総合カタログ」にも心を掴まれた。

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香りの器 高砂コレクション 展

もうひとつ興奮したのが「日本のたてもの」(東京国立博物館表慶館。行けたら行こう…くらいの気持ちだったのに、行ったらめちゃくちゃ面白くて驚いた。素人がここまで楽しめるんなら、建築に詳しい人はどれだけ楽しいことだろう? 表慶館が会場というのも良かった。

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日本のたてもの

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表慶館の階段の官能的な美しさよ

 

そして2月は足立区立郷土資料館(名家のかがやき展)と、国立演芸場および国立劇場伝統芸能情報館ミュージアム(見世物の精華)という3つの施設を教えていただき、初めて訪れることができた。
初訪問と言えば10月に東京美術倶楽部(TOBI ART FAIR 2021)へも行くことができたのでした。私個人ではなかなか入ることが叶わなかったり、ミュージアム自体を知らなかったりということも多いので、こういうご縁や情報を教えてくださる方の存在は本当にありがたい。
東京美術俱楽部は、普段の美術館とは違う客層に「買う側」の人たちのオーラのようなものを見た。

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東京美術俱楽部の中庭

3月

東京国立近代美術館の「あやしい絵」は、前述の通り2021年の中でも期待していた展覧会のひとつ。随所で見かけた「あやしい絵=なぜ女性の絵ばかりなのか?」への踏み込みがもう少し欲しいというのは同意であるが、とはいえ秦テルヲをはじめ、普段なじみのうすい関西の画家が多く紹介されていて満足。本展を経て福富太郎の眼」へ進むことができたのは良かった。

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あやしい絵 展 左は北野恒富《道行》。会場にはいたる所に都々逸も


東京都現代美術館で始まった「ライゾマティクス_マルティプレックス」、「マーク・マンダース ─マーク・マンダースの不在」、「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 受賞記念展(風間サチコ、下道基行)」
この中では不穏と心地良さを併せ持つマーク・マンダースと、圧倒的な力を感じた風間サチコが印象深い。

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マーク・マンダースの不在

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Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 受賞記念展 風間サチコ

マンダースはこの展覧会のあと、作品返却までの期間を使って「マーク・マンダース 保管と展示」という構成を変えた企画が、MOTコレクション内で開催された。

そのほか、渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で行われたドラえもん1コマ拡大鑑賞展」では、1コマを拡大したからこそわかる驚異の描写力に、藤子・F・不二雄先生の恐ろしさを再認識。

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建物込みで面白かったのは清水裕貴写真展」(旧神谷伝兵衛別荘)神谷バーの創設者にしてワイン王でもあった神谷伝兵衛の別荘は意匠の嵐。建築好きな人におすすめしたい。

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清水裕貴写真展(旧神谷伝兵衛別荘)

3月は友人の荒木愛さんの個展「昨日と明日が滲む色」も三越本店の美術サロンにて開催された。荒木さんの絵を生で観るのは久しぶりで嬉しくて、何度も絵の周りを行きつ戻りつして鑑賞。

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昨日と明日が滲む色

もうひとつギャラリー展示では、大津萌乃さんの「靄(もや)の町」を鑑賞(ondo gallery)。大津さんの絵は本当に素敵だ。来年はカレンダーを制作されるかもしれないとのこと、必ず購入します……!

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靄の町

4月

2~3月で一旦落ち着いた感染者数がまた増え始め、4月あたりからゴールデンウィークを視野に入れた対策に、各展覧会の開催が危ぶまれ始める。

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国宝 鳥獣戯画のすべて

大きなところで言うと「国宝 鳥獣戯画のすべて」(東京国立博物館だろう。2020年開催予定だったものが延期されてこの時期に移ったにもかかわらず、開催期間に翻弄されて不完全燃焼に終わった感がある。
開幕してすぐに休館、一旦再開の兆しが見えて予約受付を再開したもののやはり休館を言い渡され、国に振り回された印象がものすごく強かった。

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展示自体は2015年の鳥獣戯画展と印象が被るかと思いきやそんなことはなく、他の人が指摘されているように動く歩道が功を奏した。

当初は混雑のために阿鼻叫喚の場となった鑑賞の場を、前回よりも正常化しようという試みから導入されたのだろうが、コロナ禍という思ってもみない状況にドンピシャな設計となった。また、前後の人やペースを意識せずに自動的に送られることで絵巻に集中できるということから、快適な鑑賞体験を得られたため、ぜひ今後も採用してほしいです。
あと、展覧会のグッズが期間限定で公式以外(銀座蔦屋書店、セブンネット)でも通販されたのは、鳥獣戯画展が初めてなんじゃないかしら。

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与謝蕪村「ぎこちない」を芸術にした画家

そのほか4月は「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」(千葉市美術館)「テート美術館所蔵 コンスタブル展」(三菱一号館美術館与謝蕪村「ぎこちない」を芸術にした画家」(府中市美術館)の印象が強い。

全く名前を知らなかったがコンスタブルの描く雲は素晴らしく、マグカップが完売になるなど話題にもなった。また、府中の与謝蕪村があまりにも良くて、絵の中の人物に手を振りたくなるほど最高だった。後期に行くことができなかったのが残念。

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下旬に始まった途端休館になってしまった「しりあがりサン北斎サン ―クスッと笑えるSHOW TIME!―」(すみだ北斎美術館は、このピリピリした空気の中で、束の間のゆるやかな空気を与えてくれた貴重な展覧会。しりあがり寿さんと北斎はユーモアの感覚が似ていて、途中でどっちがどっちかわからなくなるなど。
そして「渡辺省亭─欧米を魅了した花鳥画─」(東京藝術大学大学美術館)ですよ。後述の小早川秋聲然り、加島美術で観て一目惚れした省亭、いつかまとまって観ることができたらと願っていたら、存外早く実現されて嬉しかった。

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5月

文字数がすでに多いですが、読むブログというより記録のメモなのでご容赦ください。
さて、2021年に観た展覧会でNo.1を挙げるとしたら「民藝の100年」なのだが、一番刺さったのは何かと尋ねられたら迷わず「藤田道子展 ほどく前提でむすぶ」(茅ヶ崎市美術館)を挙げたい。

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藤田道子展 ほどく前提でむすぶ

もともと平塚市美術館の「荒井寿一コレクション 川瀬巴水展」目当てで神奈川に行き、隣りの駅だしハシゴしようかと軽い気持ちで行ったのだが、とんでもなかった。
何といったらいいのか、精神に直接作用してくるという感じで、誇張抜きで足元がふらついてしまう場の力があった。

ほかにも5月は「古き良き日本の美」(斉田記念館)、「百花繚乱ー華麗なる花の世界ー」(山種美術館)、「川瀬巴水と新版画」(川崎浮世絵ギャラリー)、そして大学時代に講義を受けたことのある、森山大道先生の展覧会「はじめての森山大道。」(ほぼ日曜日)を鑑賞。

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はじめての森山大道

6月

6月の目玉は「三菱の至宝展」(三菱一号館美術館静嘉堂文庫美術館東洋文庫ミュージアムの逸品が三菱一号館美術館に集うという、なんとも豪華な展覧会である。

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三菱の至宝展

ちょうどこの月の頭に静嘉堂文庫美術館にて「旅立ちの美術」展を観たばかりだったが(会期末は大行列ができるほどの見納め展となった)、一番好きな曜変天目である「稲葉天目」が続けて2箇所で観られたのは僥倖だった。2022年にはいよいよこれらが丸の内に来るのだな。

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「旅立ちの美術」は、会期末に静嘉堂の坂の下まで行列ができたほど

ベスト10を選ぶのは難しいが、選ぶなら確実に上位に入れたいと思えたのが「コレクター福富太郎の眼」(東京ステーションギャラリー
鏑木清方の絵を探し求めたところから始まり、良いと思ったらそれが大家だろうと無名だろうと購入するというキャバレー王・福富太郎のコレクションは一貫していて気持ちが良い。
本展で一番惹かれたのは松浦舞雪の《踊り》。あの桃色のオーラは何なんだ。もっとほかの作品も観たいけれど、舞雪の消息は不明というのが惜しい。

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コレクター福富太郎の眼 ポスターもかっこよくてずるい

オペラシティで開催された「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」、会期ギリギリになってしまったが、行けて良かった素晴らしい企画。「観ること」がどういうことなのか学ぶには最適な展示だったと思う。

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ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展

またこの月は、堀本達矢さんの「Meet the KEMONO」(roid works gallery)も。Twitterで見かけて一目ぼれし、いつかぜひこの目で観たい……というか同じ空間に佇みたい! と願っていたので、こちらも思いがけず早くに鑑賞できてラッキーだった。
初日に駆けつけて大正解。すぐに入場制限がかかるほどの大盛況で、まあ、これだけ魅力的だったら然もありなん。
盛況と言えば、大学時代のつながりである内藤明先生と渡辺一城くんの写真展JCII フォトサロン・クラブ25)も、ひっきりなしに人が訪れていた。

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Meet the KEMONO

さて、ミヅマ・アートギャラリーで行われた「オーライ展」について書いておきたいと思う。

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オーライ展

2021年の夏、日本では東京オリンピックが開催された。
私は誘致の時点で大反対であり、当然オリンピックは一切見ていないし、閉幕した今もオリンピックをやって良かったとは思っていない。

本大会にそういう思いを抱いていたので、山口晃さんがオリパラのアートポスターを手掛けられると聞いた時は「そうかー……」という気持ちだったのだが、公開されたポスターを見て衝撃を受けた。付されたステイトメントにも胸を打たれた。なので、山口さんがどういう思いでこの仕事を受け、制作されたのかがずっと気になっていたのだ。

話題が話題だし、トークショーで明かされることもなさそうかなと半ば諦めていたのだが、まさかこの展示ですべてが語られるとは。

じっくり読んで反芻し、心の中で何度も何度も頷いた。
私の東京オリンピックは、このポスターの中に詰まっている。

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7月

連日更新される感染者数への恐怖と、「今観ておかないといつ中止になってしまうかわからない」という強迫観念に板挟みになったせいか、なんだかわからないけど7月は結構いろいろな展示を観に行っている。

「没後20年 まるごと馬場のぼる展 描いた つくった 楽しんだ ニャゴ!」(練馬区立美術館)は馬場さんの善の魂に触れた展覧会であり、没後発見されたスケッチが可愛すぎてやられた展覧会でもあった。そうそう、グッズ売り場がとんでもない魔窟だと話題になっていた。

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まるごと馬場のぼる展 描いた つくった 楽しんだ ニャゴ!

ルネ・ラリック リミックス」(東京都庭園美術館では、庭美とラリックとの相性の良さをまざまざと見せつけられた。やはり会場との相性というものは大切である。

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ルネ・ラリック リミックス

「ファッション イン ジャパン 1945-2020―流行と社会」(国立新美術館は、自分が通って来た歴史に対する懐かしさに悶えた。コロナでなかったら同世代の友達と行きたかった展覧会。

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ファッション イン ジャパン 1945-2020―流行と社会

北斎漫画全編公開と規格外の図録が話題となった北斎づくし」(東京ミッドタウン・ホール)、通常版本は展覧会で出品されても注目されにくいのだが、この展覧会の見せ方は版本にとって革命的だったように思う。

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北斎づくし

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で、時同じくして川崎浮世絵ギャラリーで行われた「THE 北斎は全く別の切り口で北斎について触れており、このギャラリーは本当に頭を使って展示を組んでいるなと感心した。

期待通り見応えがあったのが、「包む─日本の伝統パッケージ」(目黒区美術館。前回見逃し、その後神楽坂の工芸青花でスピンオフ的な展示を観て、ずっと気になっていた岡秀行のライフワーク。まさに“これほど美しく、これほど心を動かすものが、かつて日常生活にあふれていたのは驚くべきことである”という、岡の言葉そのものの内容。
方向的には民藝と同じはずなんだけど、「包む」の世界は民藝運動には入っていないのよな。

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包む─日本の伝統パッケージ

イラストレーター 安西水丸展」(世田谷文学館は、よく晴れて入道雲が出た夏の日に行きたい! そんで鑑賞後には冷たいアイスコーヒーを飲むんだ! という個人的なこだわりにより観に行くのが遅くなってしまったのだが、大変に素晴らしい展示内容で、行って良かった展示のひとつ。やはり安西水丸は良い。

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イラストレーター 安西水丸

一風変わった鑑賞体験もした。大手町の三井ホールで観た「巨大映像で迫る五大絵師」は、国宝や名作をとにかく巨大な映像にして鑑賞するというもの。自分は「観て」いるようで「見て」いなかったということに気づいたのでした。

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また、2021年の音声ガイドぶっちぎりベスト1に挙げたい「イサム・ノグチ 発見の道」(東京都美術館は、「あかり」150個を用いたインスタレーションが大変映える空間だったためか、この時期には珍しいほど人が入っていた。
音声ガイドを担当されたのは、「鬼滅の刃」で煉獄杏寿郎を演じた日野聡さん。煉獄さんというよりは「弱虫ペダル」の新開隼人を演じる時の声であったが、あまりにも良い声過ぎて、エスカレーターで移動中も無意味にリピート再生してしまうほどだった。

さて2022年、満を持して音声ガイド界に前野智昭さんは降臨されるでしょうか。

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イサム・ノグチ 発見の道

8月

8月で一番記憶に残っているのは、なんと言っても「生誕130年記念 髙島野十郎展」(パレット柏)。以前目黒区美術館で知り、シャルダンのような静謐な世界に魅了されて以来、再会を楽しみにしていた髙島野十郎。
小さい会場ではあるものの、かなり点数が揃っていて見応えがあった。白眉は「蝋燭」の連作なのだが、《月》と《有明の月》がそれを上回る良さで益々ファンに。

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髙島野十郎展

続いて100%ORANGE オレンジ・ジュース」(千葉県立美術館)。学生時代にZINEを買ってファンになり、Twitterのバナーにもしている100%ORANGE......。初期のポストカードの展示には、「これ持ってた!」と懐かしさに泣きそうになった。

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100%ORANGE オレンジ・ジュース

松濤美術館の「アイヌの装いとハレの日の着物」も印象深い。時期的に渋谷に人があまりおらず、よって会場がほぼ貸し切りという……。仕方ないとはいえズラリと並ぶアットゥシを前に「もったいない(泣)」と悔しくなるほど濃い展示だった。アイヌの模様を復刻している人のドキュメンタリーもじっくり見る。

「サーリネンとフィンランドの美しい建築展」(パナソニック留美術館)。エーロは知っていたが、彼の父であるエリエルは名前しか知らず。しかしその民族的情緒あふれるデザインのなんと妙妙たることか。特にフィンランド時代の作品(カレワラ関連含む)が良かった。

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サーリネンとフィンランドの美しい建築展のすばらしいチラシ

そのほか、久しぶりに国立科学博物館特別展へも行った。やはりかはくは良いですね。薦められて行った「植物」、ものすごく面白かった。研究者の情熱が感じられる展覧会はどれも楽しい。

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千葉の芸術祭は「いちはらアートミックス」が知られているが、2021年から千葉市も参入。今回は写真を軸に、「CHIBA FOTO」というイベントが千葉市の各所で展示が行われた。
これ、会場がどれも凝っていて、「地元を再発見していこう」というのは言葉にすると月並みであるが、暮らすうえで重要なことだと気づかされた。

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「CHIBA FOTO」に先行して行われた「生態系へのジャックイン」も、夜の見浜園を貸し切っての無料とは思えない内容で、県民といたしましては「千葉よ今後も頑張っておくれ!」と期待したくなったのでした。

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生態系へのジャックイン

松戸でも10月に「科学と芸術の丘」というアートイベントがあり、ちょうど大河ドラマに出てきた戸定邸が会場だったことも手伝って盛況だった。2022年も開催されるはずなのでチェックしたい。

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ほかに大倉集古館の「FUSION~間島秀徳 Kinesis水の宇宙&大倉コレクション~」にてライブペインティングを拝見。また、飯田橋に新しくできたギャラリー「Rool」の杮落としで大和田良写真展「宣言下日誌」を観る。良君の写真、どんどん洗練されてゆくなあ……。

9月

待望の展覧会「美男におわす」(埼玉県立近代美術館が開幕。それについて、美術展ナビで初めて記事を書いた。ぜひともさらに掘り下げた続編、そして再度伊藤彦造の展覧会を希望します……!(弥生美術館に届け★)

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千葉市美術館で「平木コレクションによる 前川千帆展」。マスから個人へと顧客の縮小を計る千帆、それが彼の作風にとても合っていて、これは熱心なファンがつくわなと納得の作品群だった。洒脱でエスプリが効いており、晩年の『閑中閑本』シリーズはその最たるものといった感。

 

そして開催の報を聞いた時、会田誠さんの《紐育空爆之図》と川端龍子の《香炉峰》が並ぶのかと興奮した川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション ―会田誠鴻池朋子天明屋尚山口晃―」(大田区立龍子記念館)。いやはや龍子、現代美術に負けない、ものすごいパワー。改めてその存在の大きさを知ったのでした。

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川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション。龍子の仏画を脇侍に構える天明屋尚《ネオ千手観音》

10月

松濤美術館にて「デミタスカップの愉しみ」。テーブルウェアに疎い自分でも楽しめた、まさに「ちいかわ(ちいさくてかわいいやつ)」な世界。蒐集するだけでなく実際使っているからこそのエピソードも紹介されており、それがまた良い。

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デミタスカップの愉しみ

10月は待望の「小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌」(東京ステーションギャラリーが開催された。以前加島美術で観て以来、すっかり魅了された秋聲の作品。いつかまとまって観たいと思っていたらこんなに早く実現されるとは。

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まとまって観られて嬉しかったといえば、「杉浦非水 時代をひらくデザイン」(たばこと塩の博物館も。フェリシモが出しているネイルシールを思わず購入。花譜やポスターも良かったが、やはり図案にいっとう惹かれる。

現在も開催中の三菱一号館美術館イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」。思いの丈はこちらに綴りましたが、レッサー・ユリィを知ることができたのが一番の収穫。あとモネの連作が持つ意味も。

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八百屋お七のオリンピックネタや雪舟東山御物吹き出し若冲の《乗興舟》で思わず声を出して笑った福田美蘭展」(千葉市美術館)。残念ながら後期は逃してしまったが、相変わらず大真面目に痛快だった。

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福田美蘭

つくりかけラボで開催されていた、松本力さんの「SF とりはうたう ひみつを」も、松本さんらしさ全開で素敵だった。松本さんとお話できたのも印象深い。

そしてこの月は、3年ぶりに京都へ行ったのでした。
「山口 晃-ちこちこ小間ごと-」(ZENBI)、「木島櫻谷 ~究めて魅せた おうこくさん」(福田美術館)「フィンレイソン展」(京都文化博物館と観たかったものを網羅し、河井寛次郎記念館と旧三井下鴨別邸も満喫した、素晴らしき旅だった。

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この時はまだメインの観光地すらガラガラだった京都

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11月

東京国立近代美術館の「民藝の100年」は2021年観た展覧会の中で、個人的にNo.1だった。というのも、民藝に惹かれているのにイマイチ理解が浅い自分にとって、充実した年表のような展覧会だったから。
しかしその裏にあったことなど知らない部分もまだ多いので、引き続き知る体制を作っていきたい。

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2020に開催予定だったが、2021年に延期された「動物の絵」(府中市美術館)徳川家光画伯の新発見が出るというので楽しみに行ったが、いつもは常設展となっている部屋も使って思った以上にボリュームがあり、時間配分に失敗して駆け足になってしまったのが残念。

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動物の絵

「美男におわす」展で魅惑の屏風を展開されていた木村了子さんの個展「楽園 Paradise」(DUB GALLERY)も行った。美術のモチーフにおけるジェンダーの問題が、近年徐々に取り沙汰されるようになったが、木村さんは作品を通じてそれに回答しているように思う。

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楽園 Paradise 《波濤競艇図屏風

大倉集古館の「生誕120年記念 篁牛人展~昭和水墨画壇の鬼才~」、篁牛人を知らなかったが、技法や迫力もさることながら、ヴィランほど魅力的に描く人という印象。

最澄天台宗のすべて」(東京国立博物館天台宗をつくった祖師たちの肖像全10幅が公開された時を狙って行ったが、智顗と最澄がそっくりに描かれており、「道邃和尚伝道文(最澄は智顗の生まれ変わりだと記載された古文書)」に深みが出た。
おかざき真理さんの『阿・吽』を読んでいたので、オーバーラップさせて楽しむなど。

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最澄天台宗のすべて

この時期東京都現代美術館で始まった「ユージーン・スタジオ 新しい海」、「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」、「Viva Video! 久保田成子展」三者三様内容が濃いので、ひと言で表すのは難しいが、特にユージーン・スタジオの展示は、コロナ禍の今こそ観るべきだと思う。

他者と共有できることとできないこと/多角的に見ること/想像すること──言葉にするとありきたりだが、真剣に考えるとそれは途方もない世界に突入する。
第6波の影響でコレクション展が休館となったが、企画展はなんとか開いていてほしい……。

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ユージーン・スタジオ 新しい海《海庭》

12月

月が始まってすぐに「ホテルニューアカオが営業終了となり、そこを使ってのアートイベントが期間限定で開催されている」というのを知り、一も二もなく出かけた。

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アカオのアートイベントから、根津美術館の「鈴木其一・夏秋渓流図屏風」を経て思ったのは、自分は展覧会において場の力を求めているところが強いということだった。

場の力といっても、映える会場というわけではない。なんというか、会場、作品、それを取り巻く空気全てがぴったりと合致するような力とでも言おうか。

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鈴木其一・夏秋渓流図屏風

其一展の会場はいつも通りの根津美術館だったが、会場に置かれた屏風が《夏秋渓流図屏風》に向かって集約するような、ひとつの術式が完成したような空気があったのだ。そういうものに出会ったときの、ぞくぞくとこみ上げてくる感覚のとりこになっているところが自分にはある。

今年一番それを強く感じたのが、前述の「藤田道子展 ほどく前提でむすぶ」だった。

加えて12月はゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」を東京都美術館で観た。ゴッホは強いですね。この時期でもチケットが全く取れないもんだから、今回はパスしようと思っていたが、なんでもルドンの《キュクロプス》が来るというので、この1点のために2,000円払うか悩んだものの、やはり観たいと思って行ったのだった。

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ゴッホ

 

キュクロプスはもちろん良かったのだが、ヘレーネのコレクションが自分の嗜好にとても合っており、他の絵もしっかり堪能した。銀婚式に夫から《悲しむ老人》を貰ってすんげー喜んだというエピソードには笑ってしまったが……。

そのほかハリー・ポッターと魔法の歴史」(東京ステーションギャラリー)、「江戸の華 忠臣蔵」(川崎浮世絵ギャラリー)を鑑賞。そして展覧会納めは北斎で日本史 ―あの人をどう描いたか―」(すみだ北斎美術館となった。

artexhibition.jp

記憶を頼りに書いているのでうっかり忘れているものがあるし、文字数がえらいことになったため削ったものもあるが、概ね2021年はこんな感じの1年だった。

今これを書いている2022年1月11日、かなりの勢いでコロナの新規感染者が増えてきているので、なんとかこれ以上増えずに、今年はすべての展覧会が開催されますようにと願わずにはいられない。

あとトーハクの夜間開館、これも再開されますように。

なにより2022年も、忘れられないような運命の展覧会に出会える年になりますように!
今年もよろしくお願いします。